俺たちの周囲から、外灯の明かりが徐々に消えていった。
真っ暗になっていく大通りを、俺たちは戸惑いながら走って行く。
ビュー、ビュー、と、吹いていた生暖かい風も、いつの間にか止んでいた。
「シロ! 頼む! 八天商店街まで走ってくれ!!」
「ニャ? ニャー!!」
シロは大通りを八天商店街まで、まっすぐ走って行った。俺は、夜道をシロが八天商店街まで、安全な通路で導いてくれているかのような気がした。
俺たちは、必死にシロを追い掛けた。
街の至る所から、獣のような獣じゃないような生き物の咆哮がする。
胸のざわざわ感が酷くなって来た。
一本の角が生えた鬼や、鼻の長い天狗などの妖怪の大きな影が飲食店や本屋、ビルなどの窓に映っていた。
「まるで、百鬼夜行じゃないか?! 音星! 全力ダッシュだ!!」
「はい!」
全速力でシロを追い掛けると、目の前に明かりが浮かんだ。
八天商店街のスポーツ用品店は、まだ開いていた。
店内に入ると、シロはあくびをしながら、玄関ドアの前で横になった。
「ふぅーー、危なかった……」
「ええ。何が起きるか、何が起きているのか、さっぱりわかりませんが、危ないところでしたね」
「帰りは気を付けようよ」
「ええ。このスポーツ用品店でお買い物をしたら、すぐ外で八大地獄へ行きましょう」
「いらっしゃい」
レジにはしがないおじさんがいて、俺たちを終始穴の開くほど見ていた。
棚に置いてある小型のクーラーボックスを音星と選んだ。その中で軽くて持ち運びやい一つを選んだ。
丁度、俺の背からして、左の脇下にぶら下げられる。
「火端さん。カッコイイですよ」
「……そうか? これで焦熱地獄の熱さ対策は大丈夫だろう。でも、弥生がその下層の大焦熱地獄に行った場合はどうしようか?」
「そうですねえ。あ、大丈夫かも知れませんよ。大焦熱地獄へ行ったら、念のために、また八天街へ戻ればいいんですよ。それでは、レジを済ませたら、この後、ドライアイスなどを買いに行きませんか?」
「う、うん。確かに、中身買わないとな。それじゃ、シロに道案内してもらおうよ」
レジを済まして、音星と玄関ドアまで行く途中にさっき起きたことを考えていた。あれは百鬼夜行みたいだったけど、けれども、なんで急に?
浮かばれない魂は本当にごまんとあるんだな。
まるで……俺たちに集中しているかのようだったぞ。
あ、そうか!
俺たちが地獄へ行ってきているからだ!
恐らく……魑魅魍魎とは天国にも地獄にも行けないから。
そんな、魑魅魍魎は俺たちに寄って来るのも頷ける。
何故なら、この世を永遠に彷徨うだけだから俺たちの存在がかなり気になるんだろう。
スポーツ用品店から外へ出ると、肝心なシロがいなかった。
「あれれ?」
「どうしたのでしょう?」
「確かに玄関ドアのところに、いたはずなんだけど……一体?」
「シロ! シロ! どこやーい! ……ほんと、どこへ行ったのでしょうか?」
俺の脳裏に不穏なことが過った。
スポーツ用品店の照明に、仄かに映る音星の顔にも陰りが見えてきた。
「まさか?! シロ?! もしかして、魑魅魍魎に襲われたのか?! だとしたら、どうしようか?」
「え?! 火端さん! ……シロがこっちへ来ますよ」
シロが夜の闇の中から、足早に駆けて来た。
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