巫女と勇気の八大地獄巡り

勇気リンリンの地獄旅
主道 学
主道 学

2-9

公開日時: 2024年1月20日(土) 11:54
更新日時: 2024年2月28日(水) 06:55
文字数:769

  「あの。火端さんですよね。そこにいるのは?」

「ああ……」

「妹さんは……おりましたか?」 

「いや、いない。やっぱりもっと下の方だ」

「それでは、私たちも限界ですし、おにぎりもなくなりましたし、それにもう現世は夜遅いと思うので……」

「……あ、ああ」

「ここいらで、八天街のお宿へと戻りたいのですが……」

「……あ、ああ。って、え?……ええ??」

「火端さん? お宿は? どこかに泊まるところはないのですか?」

「うん。ないんだ」

「あ、そうですか。それでは、私の今寝泊まりしている。お宿をご案内いたしますね」


 俺は音星の言葉に終始、呆気にとられていた。

 今更ながら現世に戻れるのか?

 どうやって?


「それでは、お後がよろしいようで」


 そういうと、目を瞑ったまま音星は、肩から降ろした布袋から古い手鏡を取り出した。

 

 そして、俺の方へ手鏡を向け。


「火端さん? そちらにおられますか? 鏡……写っています?」

「ああ……今、その鏡に俺の姿が写っているよ」

「そうですか。そのままじっとしていてくださいね」


 音星の持つ手鏡が光りだした。


「では……」


 しばらく俺は、言われた通りに音星の持つ手鏡をじっと見つめていた。

 すると、手鏡の光は眩しさを増した。


「そのまま……そのまま……手鏡を見ていてください」

「ああ」


…………


 突然、車のクラクションが俺の耳に入った。

 辺りがすごく明るくなって、雑踏が少しずつ聞こえて来た。

 

 俺はびっくりして、後ろを振り向くと……?


「うん?」


 目の前には、バスで来た時に見た八天街のロータリーが広がっていた。

 

「え? え? な??」

「どうです?」


 音星の声の方へ首を向けると、音星は布袋を背負ってロータリーから大通りへと横断歩道をスタスタと歩いて行ってしまった。

 

「さあ、火端さん。お宿はこっちですよ」

「あ……ああ。さすがに驚いたよ」


 なるほど。

 こうやって、音星は地獄へ行き来していたんだ。


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