巫女と勇気の八大地獄巡り

勇気リンリンの地獄旅
主道 学
主道 学

1-3

公開日時: 2023年12月12日(火) 04:50
更新日時: 2024年2月28日(水) 06:49
文字数:967

 「さて、どこにあるんだ?」


 俺は地獄への入り口を探した。

 あ! 確かバスガイドさんは鏡がどうとかいっていたな。


 鏡を探そう。

 多分、本殿の中にあるはずだ。


 こじんまりとした神社だ。

 本殿の中に入れば、すぐにわかった。


 鏡は神社の中央に上を向いて設置されていたので、俺は自分自身を映すために向きをこっちへ変えた。


 妙に外からの風の音が大きくなって、本殿の中も寒くなって来るが、俺はその鏡の前に立ってみた。


 途端に、外から雷鳴が激しくなり響き、俺を映し出す鏡面がぐにゃりと歪んだ。


 だが、俺は見間違いだとは思わなかった。

 ああ、鏡が歪んだんだなあとしか思わなかった……。


 あれ?

 鏡が歪んだわけじゃないや。

 俺の姿が歪んだようだった……。


 本当に俺の身体が歪んでいる。

 けれども、痛みはまったくない。


 ぐにゃり、ぐにゃり、ぐにゃり。

 

「ああ、そうか!」


 俺は合点した。

 身体を極度に歪ましているのは……そう、俺を鏡に入りやすくするためなんだ!


 激しい雷鳴と共に、鏡が輝き出した。

 落雷が近くへ落ちた轟音がする。

 俺は鏡面が仄暗い洞窟を映しているのを見て、いよいよだなと思った。


 キュー――ン。という、過度な吸引音と共に俺は鏡の中へと勢いよく吸い込まれていった。


…………


「うん?? 痛ってーーー!!」


 俺は気がつくと頭を抑えた。

 頭部がズキズキと鈍い痛みを発している。

 めげずに辺りを見回すと、そこは仄暗い洞窟の中だった。


 さっき、鏡面に映っていたところだな。

 轟々と風の音が奥から聞こえてきた。

 気温は不思議と寒くはない。そして、熱くもなかった。


 痛みを発した頭を撫でながら、俺は強い風が吹いている洞窟の奥へと歩くことにした。


 ピタッ。ピタンッと、水滴の音がたまにするのと、激しい風の音以外はしない洞窟の中で、俺は今日の夕食をとっていないことを思い出す。


 昼から何も食ってなかった。

 途端に、グゥ―と腹の虫が鳴った。


「地獄巡りバスツアーの後に、すっ飛んで来たからなあ……腹減った……地獄に食べ物なんてあるわけないぞ」


 俺はリュックサックの中にある最後の菓子パンを、昼間にバスの中で食べてしまったことを悔やんだ。


「うん? 何か聞こえる??」


 暗い洞窟の奥は、相変わらず風の音が凄まじい。

 けれど、人の足音が聞こえた。

 だが、どう聞いても靴の足音じゃない。

 まるで、素足で歩く音だった。


 ヤバいかな?

 戻って、元来た道を逃げるか?


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