俺が妹の12才の誕生日の時に買ってやった本は、きっと本好きの妹のことだからここ地獄でも持参しているはずだと思っているんだ。
なあ、妹よ。
お前はこんな世界に来ているのか?
違うだろ。
お兄ちゃんと一緒に天国へ行こうぜ。
「火端さん。私、何故か後ろから小動物の気配を感じます。そうですね……うん? これは……」
「う! う! うわ! シロ!!」
俺は後ろを振り向くと、シロがのこのこと着いてきていた。シロはここ恐ろしい衆合地獄でも何事もなかったかのように音星の歩幅に合わせて歩いていた。時折、周辺の潰されていく人型の魂を見ては、ニャーと悲しく鳴く時もあった。
ゴー、スー、ゴ―、スー。
辺りの石臼が擦れる音が激しくなった。空から、また大勢の罪人たちが落ちてきたようだ。バタバタと地面に落ちる罪人たちを、牛頭と馬頭が追いかけ回す。俺はその光景を目の当たりにして、片手を音星の目元に当て。片手にシロを持って、この広大な大地の衆合地獄で妹探しを続けた。
足元に気をつけながらの妹探しだった。なにせ両手が塞がっているんだ。音星は時折、「う」と呻くこともあった。心配して辺りを見てみると、その原因が灰色の空から罪人が地面に落ちてくる際に、「痛て!」「痛い!」と痛みを発しする人がいたからだった。
その人たちは、生前で色欲に溺れたことを、ここで後悔するんだろうなあ。あ、でも。色欲に溺れたといっても。度が過ぎる色欲といわれているんだ。例えば、異性を襲う強姦のような罪だろう。
刃葉林地獄は、それと愛欲に囚われた人が落ちる地獄だし、現代版ではさながら危険なストーカーとかなのだろうな。多分な……。
この地獄の階層へは、俺の妹が落ちるはずはないな。
そう思って、もう一つ下の階層への入り口も探した。
血だまりの大地をゆっくり歩いていると……。
うん? あれれ??
俺は地面に一冊の本を見つけた。
その本は……俺が妹の誕生日に買ってやった本だった……。
「な……なんでこんなところに妹に買った本が……あるんだよ?」
「どうしたんですか? 火端さん?」
「え? いや……妹の誕生日に買ってやった本が、ここ衆合地獄にあるんだ」
けれどもどうやって、本を取ろう?
両手は塞がっているし。
重要な疑問はそこではないけれども……。
「それなら……」
音星が俺が目元に当てていた手を、そっとどかしてから地面にある本を取ってくれた。
ニャー
「あ! 目?!」
「はい?」
こちらに顔を向けた音星は、目を閉じていた。
俺は音星が目を閉じていたことにホッとして、本を取ってくれたことにお礼を言った。シロが本に興味を持ったようだ。音星は目を瞑ったまま周囲の音や悲鳴に気を取られている。
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