巫女と勇気の八大地獄巡り

勇気リンリンの地獄旅
主道 学
主道 学

それも理(ことわり)?

2-7

公開日時: 2024年1月20日(土) 11:52
更新日時: 2024年2月28日(水) 06:53
文字数:1,158

  「うぐっ……」


 俺は腹が減っているのに、完全に食欲がなくなっていた。

 音星は静かに目を瞑っている。


 辺りは地獄の鬼(獄卒)たちの食堂だった。

 血の滴る食材が粗雑な木の机の上に散乱し、至る所に骨が散らばっている。


 牛、馬、鳥などに混じって、明らかに人肉だとわかるものもある。人間の腕や足が机の上に無造作に置いてあった。


「ほら、足元気をつけろよ。そこに……岩があるから」


 本当は人の頭だったが、俺は嘘をついて音星をこの食堂の出入り口へと歩かせていった。


 音星は目を瞑ったままニコリとこちらに笑った。

 また等活地獄の針山が見えるところへ出ると、俺は今度はここで本格的に妹を探そうとした。


「ええ、そうしましょう。あ、でも。火端さん。その前にあそこでお昼にしませんか?」


 音星は等活地獄の隅っこにある綺麗な岩間を指差した。

 

「ああ……」


 薄っすらと淡い青色の苔の生えた岩間には、丁度、座れるくらいに削られた岩があった。足の低いテーブルにもなりそうな切り立った岩もある。そこへ音星が背中から布でできた袋を降ろして、その中から大き目のハンカチで包《くる》まれたおにぎりを置いた。


 俺は必死だったから気付かなかったけれど、どうやら、音星は今まで布でできた袋を背に抱えていたようだ。そういえば、音星は提灯を手に持っていない。今は布の袋の中に仕舞っているんだな。


 俺のリュックサックの中には、菓子パンもないので、有難く頂くことにした。


「ありがとな」

「ええ」

「……おにぎりの中身は?」

「梅干ししかないですよ」

 

 しばらく、俺たちは等活地獄で飯を食べていた。獄卒の休憩場だけあって、辺りは静かだった。 


 ふと、俺は音星が何故、地獄にいるのかと疑問に思った。


「あの。音星はどうして……?」

「地獄へいるのか……? ですか? 私、この通り巫女の格好をして旅をしていますが、正確には巫女じゃないんですよ」

「へ?」

「私、東北地方の出なんです。あと、どちらかというと巫女ではなくてイタコ寄りなんですよ。死者の口寄せをしていますので」

「ああ、そうなんだ。あっ、そっか! 音星は口寄せ巫女っていうイタコの系統に属する巫女なんだな」

「ええ、ええ! そうなんです!」

 

 音星は少し上の空で、どこまでも続く灰色の空を眺めながら考えあぐねいた。それからゆっくりと口を開いた。


「私ね。尸童(よりまし)や死口(しにくち)の時にこう思ったの……」

「確か……。尸童(よりまし)は、巫女が神降ろしの際に、神を乗り移させたりする子供や人形のことだね。……えーと、確か。死口(しにくち)は死者の魂を呼び寄せて、語らせることだね」

「ええ。そうです」

「ふむ……。その時にこう思った。地獄で死者の弔いをしてみよう……と?」

「はい! その通りなんです! よくわかりましたねえ火端さん!」

「……」

「はい? 私、何か変ですか?」

「いや、別に」


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