「あ、二人共もうそんな仲なのね。お熱いのねー……ごちそうさま」
「ちがーう!!」
俺は赤面して叫んだ。
俺は廊下で風呂場の順番待ちをしていた。
今は音星が入っている。
廊下の掛け時計を見ると、現世では昼の14時20分だった。
玄関口でガムをかみ終えたのだろう。霧木さんが廊下を通って行く。
俺の目の前にくると、なにやら霧木さんはこちらを見つめてはしばらくクスクスと笑っていた。
俺は顔が更に真っ赤になった気がした。
「二人ともどうしたの? 喧嘩でもしたの?」
「あ、いや。実は……」
「ちょっと地獄という別世界へ行っていたのです」
音星が風呂場のガラス窓から顔を覗かせて、話に入ってきた。
「地獄? 地獄ねえ……地獄……?」
「あ、いや。実は……」
「あの。火端さんの妹さんが冤罪で地獄へ落ちてしまって……それから、妹さんを救うために八大地獄巡りをしているんですよ」
俺が触れてしまいそうなほど、接近している霧木さんから漂う香水の香りに、ひどくドギマギしていると、音星が助け舟をいれてくれる。
「あ、そうなの。確かにここ八天街は、日本でもっとも地獄に近い場所って聞いた時があるわ。それに妹さんを救うため? 火端くんって、ほんとタフねえ……」
「え?! あ、いや……」
「はい。そうなんですよ」
「わかったわ。じゃ、私は部屋へ戻るわね。音星さんも、いつまでもそんな格好じゃ、後で風邪引くわよ」
「はい? って、キャ!」
何のことかと、俺は音星の方に首を向けた。
「え?! わっ!」
俺は慌てて目をそむけた。
ガラス窓から見える上半身裸の音星は、慌てて手桶を構えて胸を隠そうとした。
音星はどうやら水風呂に入っているみたいだった。
更に更に顔を赤くした俺は、その手桶からの冷たい水飛沫を勢いよく浴びた。
「わっぷっ!」
俺のTシャツは、冷たい水でびしょ濡れになってしまった。
音星はいつもおっとりとしていて、おおらかな性格だけど、こういう一面もあるんだなあ。
――――
俺は全身の血の臭いを洗い落として、サッパリとした後、風呂上がりに何か飲み物をとキッチンへ行くと、古葉さんがシロと一緒にテレビ番組を熱中して観ていた。それは未解決の大きな事件を振り返っていくという番組だった。
「うっわー……えげつねえなあ」
「ニャー」
「うっわー……古葉さん。その事件。まだ未解決だったんだね」
「ああ、どうやら、そうらしいな。海外の話だけどな。犯人は未だに逃走してるってさ」
「ニャー」
「うっわー……」
「あれ? なあ、これ……」
「ニャ?」
「うん?」
古葉さんが観ていた番組では、次の事件で妹の交通事故が映っていた。
それは俺の知っている交通事故とは少し違った交通事故で、妹が起こしてしまった事件は何故起きたのかという主旨で映っていた。
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