巫女と勇気の八大地獄巡り

勇気リンリンの地獄旅
主道 学
主道 学

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公開日時: 2023年12月12日(火) 04:50
更新日時: 2024年7月6日(土) 17:48
文字数:1,375

  そう思った時に、向こうから人を呼ぶ声のような……。


「あの。こんにちはー、こんにちはー、そこに誰かいるんですよね?」


 いや、確かに人の声で誰かを呼んでいた。

 ひょっとして、俺のことを?

 だとしたら、御先祖様とかかな?


 それも女の人の声だ。 


「あ、ああ……こんにちは」


 俺は女の人の声に緊張感が抜けると同時に呆れたが……驚いた。


 その女の人は提灯片手の巫女姿だったからだ。

 

 巫女??


 俺は仄暗い洞窟の中で、提灯の明かりに照らされた巫女の顔を見つめた。

 長い黒髪で綺麗な人だが、どこか幼さが残る可愛らしい顔。

 背は俺に比べて少しだけ低かった。


「こんにちは?? って、え? もうそんな時間なのかよ?! 俺はてっきり……深夜か早朝だと思ってたぞ」

「え? あ。こんにちはなんて、確かに変ですよね。適当に言ったまでですので、お気になさらないでくださいね。それにしても、生きている人がここへ来るなんて、本当に珍しいですね」

「え? あ、あの。巫女さん! ここは地獄ですよね! 俺……! 俺……! 死んだ妹を探すために地獄を探しています!」

「はい。そうなんですか?」

「……背が低く。可愛らしいショートカットの女の子なんだ。名前は弥生。きっと、冤罪なんだ!」

「はあ、人魂はたくさんお見掛けしているので……なんとも……でも、そうですね。ここは地獄ですよ」


 とぼけているようでもなく。

 その巫女は至って真面目な様子だった。


 俺は急に身体が震えだした。

 けれども、ここに妹がいるはずなんだ!


 そう思って勇気を出すと、恐怖が吹っ飛んだ。


「そうか、良かったー!! 俺は勇気。名前は火端《ひばた》 勇気っていうんだ。妹も火端だ。八天街の神社からここへ来た」

「はい! 私は音星《おとぼし》 恵です。へえー、そうなんですか。妹さんのために。私は青森県の恐山菩提寺から来ました。恐山菩提寺は下北半島の霊場・日本三大恐山の一つにあるんです。そこでは死者の供養と、イタコの口寄せを開く場所になっていて。私は、その恐山菩提寺から死者の弔いのために地獄を旅しているんですよ」


 けれども、よくこんなに凄まじい風の中なのに、提灯の火が消えないもんだな。


 洞窟の中の風は未だに強烈に吹いているのに。



「ああ……そうなんだね。……俺は死んでしまった妹を探すためさ。ずっと昔から地獄の入り口を探しているんだ。今じゃ、ちょっとした地獄マニアさ。妹を助けるためなら何だってする! そして、死ぬほど怖いけど……本物の地獄へやっと来れたんだ! やったぜーー!! あはははは……何故か……なあ……妹は……冤罪の感じがするんだ。優しい子だったんだ」

「はあ、それはお辛そうですね。ここは八大地獄と呼ばれているところです。死者はその罪の大きさによって、それぞれ最下層へと向かうところなんです」

「はっ、八大地獄ー?! うひゃあーーー! こえけど、やっっったぜーー! 八大地獄ならよく知っているよ! 等活地獄。黒縄地獄。衆合地獄。叫喚地獄。大叫喚地獄。焦熱地獄。大焦熱地獄。それに阿鼻地獄とあるんだよな」

「ええ、良くご存知で」


 音星がハッとして。、急に俺の後ろの方へ目を向けてから、口をキュッと結んだ。

 そして、口を開き静かに言った。


「あの火端さん。走れますか? それもかなり速く?」

「え??」


 俺は自分の真後ろを見た。

 途端に、驚いた。


「また、あいつか?!」

「逃げましょう!」


 八天街にいた。

 魑魅魍魎のろくろ首だ。



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