巫女と勇気の八大地獄巡り

勇気リンリンの地獄旅
主道 学
主道 学

4-23

公開日時: 2024年2月29日(木) 18:58
文字数:1,192

  近くのゴ―、スー、ゴ―、スー、石臼で擦る音と共に、シャー、とシロが鋭く鳴いた。見ると、音星の方へ人型の魂となった罪人が、押し潰されながら、あっちの方を指差していた。


 そこには、また古井戸があった。


 広大な大地にポツンとある古井戸には、傍に……この妹に買った本のだろうか?


 竹の模様が付いた栞が一枚落ちていた。 



「栞? 多分、これは妹のだろう。でも、罪人はその栞を指差したのか、それとも、古井戸を指差したのか……? どっちだ?」

「え? 妹さんのものですか?」

「多分な……」

「私、栞という依代から少しだけ持ち主がわかる気がします」

「おお!」

「では……」


 俺は栞を拾うと、音星に手渡した。音星は途端にキュッと目を固く瞑ると、フゥと息を吐き。栞に向けて微笑んだ。


「そうですね。妹さんって、弥生さんというんでしたよね。後ろ髪だけ茶髪の。前髪は黒いですが、ちょっとツッパリのような性格で……」

「ああ……あ!」


 音星は何故か知らないはずの妹の特徴を話していた。

 そうだ。妹はバイクを乗り回すのが好きだった不良だ。それもスクーターじゃない普通の二輪バイクだ。


「もう少し、ここを探した方がいいかな? まあ、一応なんだけどな?」

「いえいえ、きっと妹さんはここにはいませんよ」

「うーん……そうだな。シロはどう思う?」

「……火端さん?」


 シロは俺の腕の中で、毛繕いをしている。

 それにしても、確かに妹がここへ落ちるはずはないしな。もっと、下へ落ちてしまったんだろう。衆合地獄は探すには探したしな。

 

 ニャー……。

 シロは首を傾げた。


「なんてな! じゃあ、行こうぜ!」

「ええ。叫喚地獄へ」


 俺たちは古井戸まで歩いて行った。


 古井戸の中には、一本の綱が下りていた。俺は嫌な予感がしたが、最初に降りていくと、次第にぶすぶすと幾つもの釜土が煮えたぎる音がし、身体中に下方から高温が襲いだしてきた。それと同時に、多くの絶叫が聞こえる。


 俺は勇気を持って、降りていった……。

 

 下の地面はマグマのような真っ赤に染まっていた。足裏が焼け焦げるかと思うほど熱い。周囲を炎が覆いつくし、火のついた釜土が至る所にあった。そこで人型の魂が逃げ回る凄惨な光景だった。


「だいぶ、地獄の下まで来たけど、まずいぞ……これは……」

「ええ。もう人間では無理なんじゃないでしょうか?」


 うーん……。

 

 でも!

 後、もう少しなら……いけるぞ!


「よし! 大叫喚地獄の入り口をすぐに探そう。妹探しはほんの少しだ!」

「ええ……あ、火端さん? シロが……」


 俺の腕の中のシロは熱さで、ぐったりしていた。だけど、何も抗議しないのだから良い猫だ。


 うん?


 それに、賢い猫じゃないか!


 シロはじっとしながら、地面に小さな白い花の咲いた。火がついていいない釜土を向いていた。


 至る所にある煮えたぎる釜土のせいで、歩くのが辛い。何故かというと、汗をかいているのは、身体だけじゃないんだ。足からも地面へと、汗が止め処なく流れていく。


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