いや、ここで読んでしまえばわかるはずだ……。
「火端さん?」
そこで、後ろから音星の呼び声がした。
俺は振り向くと、死者に紛れた音星がいた。
右手に持っている閻魔帳に気がついて、こちらを心配しているようだけど、俺は最初から平気なんだ。
弥生は絶対に助けると決めたからなんだ。
俺がニッと微笑むと、音星がコックリと頷いた。
「それは、閻魔帳ですね。やっと弥生さんが本当に冤罪なのかがわかりますね。火端さん? あちらの角で読んでみましょうよ」
「ああ、さすがにここで読むには死者たちに邪魔になるか……」
音星の指し示した坂道の角は、何の変哲もない木が立っていた。風も吹かない場所なので、木の葉が揺れたり落ちたりもない。
ここも、殺風景だな。
俺は音星と共に、閻魔帳から火端 弥生の書かれた文章を探した。
うん?
昔の文章だな。
それも書簡とかいわれるものに使うような文章だ。
なになに……。
火端 弥生
●月●日 火曜日
飲酒に姦淫の疑い。
酔っぱらっての周囲を惑わす妄言。
車で人を轢く。
轢かれたものは……。
「坊主??」
「お坊さん?」
俺は目が回り、音星と顔を見合わせた。
「あ、続きがありますね」
音星が次を急いだ。
「ああ……うん? 丸坊主?」
「あ! 最初から丸が抜けているんじゃないでしょうか? この文章? 丸坊主なのに、坊主と書かれていますね」
…………
うーん。
丸坊主? って、ことは弥生の言った通りに非合法組織の幹部のようだな。
これは……。
多分……。
弥生は冤罪の可能性大大大だ!!
やったぜーーー!!
あ、でも、弥生は交通事故という形で、人を確実に殺害しているんだった?!
う?!
うーん……。
うん!
非合法組織の幹部だけど、やっぱり罪は罪だよなあ……。
仕方ないよなあ……。
あ、そうだ!!
でも、俺は弥生を絶対助けるって決めたんだ!!
そうとわかれば早速、弥生を探して合流するぞう!
でも、どうやって地獄から弥生を助けるんだ?
いや、助けられるんだ?
うん。地獄からの脱出法に解脱や転生があったっけ?
あ、そうか。
方法はまだあるっていうことか?!
諦めたらそこで方法がもったいないや。
「火端さん? あの。真面目に考え事をしている時になんですが、あそこに、弥生さんがいましたよ。ほら、あそこの坂道のところです」
「うん? ああ。そりゃ良かったぜ」
弥生は殺風景な坂道のちょうど真ん中にいた。
大勢の朧気な姿の死者と一緒だから、今まで気がつかなかったのだろうか?
いや、待て。
閻魔大王と弥生は何やら話をしていた。けれども、さすがにここからじゃ、何も聞けないや。
「あ! 弥生さんが門をくぐりましたね」
音星の言う通りに、弥生は閻魔大王との話を終えると門を通って行った。
…………
閻魔大王がこちらへと来てくれて、弥生とのさっきの話を親切に伝えてくれた。とても忙しい身だと言うのに、俺は閻魔大王に頭が上がらなくなった。
「妹の火端 弥生はその罪悪感から、やはり地獄にいるといいだしたぞ。兄のお前はどうするんだ?」
「え?! 弥生が?!」
「えーっと、火端さん。どうしますか? 私はここまで死者たちを弔うための旅の途中で、その一環でもあるので、一緒にいますが、大事な妹さんのことは決めるのは火端さんですよ」
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