「昨日の番組ずっと観てたら、またやっててさ。なんでも、広部 康介っていう奴は、愛したものを殺害してしまう病なんだってさ?? 確か」
古葉さんは最後まで、弥生のテレビ番組を観てくれたらしい。
「「?!」」
俺は一瞬だけど、みんなと同じことを考えたはずだ。
「それじゃあ、弥生は……」
「……」
俺の不安げな声に、答えられず古葉さんが急に無言になった。おじさんとおばさんも、谷柿さんや霧木さんまでもが、無言になった。
「あ……」
そうか……。
弥生の奴は、交通事故でとっくに……。
広部康介も今では、大叫喚地獄にいるんだ。
全ては済んだこと。
そう、終わってしまったことだ。
失われてしまった時間。
欠けてしまった時間。
全部、過去のことだ……。
「火端? あのさ。治ったら、俺と一緒に東京の銀座に行かないか?」
「銀座?」
「ああ。広部 康介がボスやってた非合法組織はもう壊滅したけどな。その組織の建物は、今でもちゃんとあるって話だ。何かあるんじゃないかな? その腕時計が何かの役に立つんじゃないかな?」
「あ! きっと、そうだよ!! 古葉さん! 行こう! 行こう!」
「わっ!! バカ! 火傷治ってからだよ!!」
俺は、古葉さんの胸へと、嬉しくて飛び込もうとした。
気がつくと、音星が俺の肩にそっと手を置いてくれていた。
重かった火傷も治って、やっと退院することになった。
八天病院にいる間は、音星がずっと付き添いをしてくれていた。そのお蔭で俺は両腕両足が動かなかったのに、何不自由もなかったんだ。
ありがとな。
音星。
東京かあ。
あそこへは、一度は行ってみたいと思っていたんだ。
古葉さんと早朝に起き出して、大分県別府市八天街から新幹線に乗って、東京駅へと来た。それから、古葉さんの道案内で、東京駅から丸ノ内線へ乗り換えて銀座へと向かった。
もう昼になっているので、電車の中は意外に混んでいた。電車の中はクーラーで少し肌寒いけど、外は暑かったのだろう。二駅目から乗って来た背広姿の男性は、大汗を掻いている。
古葉さんによると、銀座駅から徒歩で銀座一丁目の美術館の隣のビルを目指すのだそうだ。そのビルが広部 康介の組織があった建物である今の目的地だ。
「いや、八天街も暑いが。ここも暑いんだなあー」
「お前、駅から降りたら……そればっかりだな」
俺は八天街と同じ暑さの銀座に驚いていた。東京そのものも初めてだ。空も同じ。野鳥も少し雰囲気違うけど、同じ……。雑踏は……八天街よりも多いかな?
ニャー、ニャー。
ニャー。
どこかから、猫の鳴き声がする……。
「あ! 火端! こっちだ!」
「うん?」
「ここにさあ、いるんだよなあ」
「何が?」
「ほら、いた!」
「あ!」
自動販売機の隣に、一匹の黒猫がいた。
こちらを見ては、スンスンと鼻を鳴らしている。
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