見る見るうちに先頭を走る弥生に追いつけなくなった。
音星も呼吸を乱しながら、俺の前を走っているけど、速すぎて見失いそうになる。地面には火のついた釜土が所狭しとあった。
火のついた釜土からも間欠泉のように湯気が立ち昇る。
俺たちは煮え湯から逃げるために、また全速力で走ることになった。それも、今度は元来たところを通って、東へ向かうんだ。一度、走ったところだから、火のついた釜土の位置や、それに入っている人型の魂たちの位置までもが、俺には感覚的によくわかっていた。
きっと、音星たちもだろう。
大急ぎで駆け抜ける間中。ずっと、俺の後ろにはシロがいた。シロもさすがに猫だけあって足が速いな。
「火端さん! もっと速く!」
「ああ! わかった!」
音星って、こんなに足が速かったのか?
俺とシロの後ろ擦れ擦れには、まるで追いかけるように、空から大量の煮え湯が降り注いでいく。
俺たちが走り出した後で、ジュウ。ジュウっと、真っ赤な地面が焦げる音がしてきた。
「ハアッ、ハアッ!」
俺は思いっきり地面を蹴って走った。
「キャッ!」
目の前を走っていた音星が急にバタンと倒れた。何かに躓いたんだ。
「音星! 大丈夫か?!」
俺が駆け寄ると、音星の右足を人型の魂が掴んでいた。
「ほんとごめん!! 急いでるんだ!」
俺は人型の魂の手を音星の右足から力任せに外すと、目を瞑っている音星を立たせた。
「さ、早く行こう!」
「はい!」
俺たちは後ろで巻かれる煮え湯から逃げるために、走った。
火のついてない釜土が目に入った。
そこまで、走るとあることに気がついた。
「や、弥生??」
今まで音星の前方を走っていた。弥生の半透明な姿が見えなくなっていた。
「どこへ行ったんだろう? おい、弥生!!」
「弥生さーん!!」
俺と音星は弥生を呼んだが、返事すらもない。弥生を呼ぶ声は辺りの人型の魂の悲鳴によって、掻き消えてしまうのだろうか?
そうこうしているうちに、降り注ぐ煮え湯がすぐそこまで来ていた。滝のように降り注ぐ煮え湯が、俺たちの真後ろへ迫っていた。
「仕方ありません!! 火端さん!!」
「え?!」
音星は俺に手鏡を向ける。
「えい!」
「わっ! ちょっ! 待っ?!」
手鏡からの激しい光が俺の目を襲う。
俺は眩しさで目を瞑った。
辺りの人型の魂の悲鳴が聞こえてこなくなった。
変わりに、車のクラクションの音がする。
目の前には、真夜中の涼しい風が吹きすさぶ。人はがらんどうの大通りだった。
ここは八天街だ!
「おお!」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
「火端さん……。あの、弥生さんは明日探しましょうよ」
「え? なんで?」
「気付いてないようですね。火端さんはもう体力の限界だと思うのです」
「う……」
「それにここで一日くらい経っても、地獄の時は進まないようですから」
「……時差?」
「時差?」
「そうだよ時差だよ。ぷっ……あはははは」
笑が治まってくると、俺は音星と大通りから横断歩道を通って、裏通りへと向かう。
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