巫女と勇気の八大地獄巡り

勇気リンリンの地獄旅
主道 学
主道 学

5-28

公開日時: 2024年4月5日(金) 20:39
文字数:1,190

 見る見るうちに先頭を走る弥生に追いつけなくなった。


 音星も呼吸を乱しながら、俺の前を走っているけど、速すぎて見失いそうになる。地面には火のついた釜土が所狭しとあった。


 火のついた釜土からも間欠泉のように湯気が立ち昇る。


 俺たちは煮え湯から逃げるために、また全速力で走ることになった。それも、今度は元来たところを通って、東へ向かうんだ。一度、走ったところだから、火のついた釜土の位置や、それに入っている人型の魂たちの位置までもが、俺には感覚的によくわかっていた。


 きっと、音星たちもだろう。 


 大急ぎで駆け抜ける間中。ずっと、俺の後ろにはシロがいた。シロもさすがに猫だけあって足が速いな。


「火端さん! もっと速く!」

「ああ! わかった!」


 音星って、こんなに足が速かったのか?

 

 俺とシロの後ろ擦れ擦れには、まるで追いかけるように、空から大量の煮え湯が降り注いでいく。


 俺たちが走り出した後で、ジュウ。ジュウっと、真っ赤な地面が焦げる音がしてきた。


「ハアッ、ハアッ!」


 俺は思いっきり地面を蹴って走った。

 

「キャッ!」


 目の前を走っていた音星が急にバタンと倒れた。何かに躓いたんだ。


「音星! 大丈夫か?!」


 俺が駆け寄ると、音星の右足を人型の魂が掴んでいた。

  

「ほんとごめん!! 急いでるんだ!」


 俺は人型の魂の手を音星の右足から力任せに外すと、目を瞑っている音星を立たせた。


「さ、早く行こう!」

「はい!」  

 

 俺たちは後ろで巻かれる煮え湯から逃げるために、走った。


 火のついてない釜土が目に入った。


 そこまで、走るとあることに気がついた。


「や、弥生??」


 今まで音星の前方を走っていた。弥生の半透明な姿が見えなくなっていた。


「どこへ行ったんだろう? おい、弥生!!」

「弥生さーん!!」


 俺と音星は弥生を呼んだが、返事すらもない。弥生を呼ぶ声は辺りの人型の魂の悲鳴によって、掻き消えてしまうのだろうか?


 そうこうしているうちに、降り注ぐ煮え湯がすぐそこまで来ていた。滝のように降り注ぐ煮え湯が、俺たちの真後ろへ迫っていた。


「仕方ありません!! 火端さん!!」

「え?!」


 音星は俺に手鏡を向ける。


「えい!」

「わっ! ちょっ! 待っ?!」


 手鏡からの激しい光が俺の目を襲う。

 俺は眩しさで目を瞑った。



 辺りの人型の魂の悲鳴が聞こえてこなくなった。

 変わりに、車のクラクションの音がする。

 

 目の前には、真夜中の涼しい風が吹きすさぶ。人はがらんどうの大通りだった。


 ここは八天街だ!


「おお!」


 俺は素っ頓狂な声を上げた。


「火端さん……。あの、弥生さんは明日探しましょうよ」

「え? なんで?」

「気付いてないようですね。火端さんはもう体力の限界だと思うのです」

「う……」

「それにここで一日くらい経っても、地獄の時は進まないようですから」

「……時差?」

「時差?」

「そうだよ時差だよ。ぷっ……あはははは」


 笑が治まってくると、俺は音星と大通りから横断歩道を通って、裏通りへと向かう。


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