「ニャ―!」
「あった!!」
そこで、シロが小島の右端にポツンと空いている巨大な洞穴を、運よく見つけてくれた。
シロが先頭を歩き。私はその後をフラフラと追った。
洞穴の中は、意外にも凍えるかのような寒さがあった。
辺りは暗く。前方の方からビュウビュウとした風が巻き起こり。いや、猛威を振るっていた。
風の音で、耳を傷め。耳を両手で抑えると、さっきまでの大汗の滴が、瞬時に凍る。私は、今度は肩に下げた布袋から、提灯を取り出すと、暖を取るとともに明かりを点けた。
「ニャーーー!!」
「あ!! シロ!」
シロが突然、真っ直ぐに暗闇の中で走り出したのだ。
この洞穴には、人魂がない。
明かりは、手に持った提灯だけだった。
それでも、私はシロが何かを、それも必死に探してくれるために走り出したのだと思った。
提灯片手なので、この吹雪の中。シロを追って、私は走ることができなかった。辛抱強くゆっくり歩いていると、やがて、洞穴の出口だろう。そこに巨大な扉が見えた。
扉の取手は、血で真っ赤に染まり。
おびただしい血が地面に流れていた。
ムッとくる血の臭いに、鼻をハンカチで抑えると、この扉の向こうには大叫喚地獄が広がっているはず。と、確信できた。
シロはどこへ?
ひょっとして?
「シロ! やーい!」
巨大な扉に呼びかけてみると、「ニャー」と微かだがシロの鳴き声が返ってきた。
そこで、自分の肩が震えていることに気づいた。ここからは、恐ろしい大叫喚地獄だ。血も凍るような呵責の場所。
だけど私は、火端さんを思い出して、勇気を振り絞り。ここにいても仕方がないので、扉をゆっくりと開けることにした。
扉を開ける。洞穴の外は、鉄で肉や骨を打ち砕き、切り裂き、突く音と共に、至る所から悲鳴が鳴り響く凄まじい場所だった。
「シロ!」
前方には、シロが半透明な人型の魂の一人を追い立てて、こちらにやってくるところだった。追い立てられた半透明な人型の魂は、よく見ると、右手に高級そうな金の腕時計をはめている。
私のすぐ傍までくると、両膝に両手をつけて項垂れた。まるで、ぜえぜえと息を整えているかのようだった。
「シロ? ああ、この人が広部康介!」
「ニャー」
シロが首を垂直にして、後ろ足だけで立ち。広部康介だろう人型の魂を、チョンと右前足でつついた。
なんて……。
賢い猫なのだろう。
私一人では、ここ広大で凄惨な大叫喚地獄で、広部康介を探せずに迷い途方に暮れていただろう。
広部康介の人型の魂は、金の腕時計を外して、こちらに差し出した。
「え? 持って行けというのですか?」
人型の魂が頷いた。
広部康介は、何か思惑かやってほしいことがあるのだろう。
私は高級な金の腕時計を受け取ると、シロを連れ、再び洞穴へ戻った。
多くの人型の魂が呵責による苦痛や苦しみで、大絶叫している場所で、広部康介は、私に最後に頭を深々と下げていた。
氷のような冷たすぎる空気の洞穴を、提灯片手に歩いていると、シロが先頭へ歩いてきた。焦熱地獄まで、シロが道案内をしてくれているかのようだ。
ああ。また今度は来た道を戻るのですね。
ビュウビュウと前方から、吹雪く粉雪の道をひたすら歩くと、洞穴を抜けた後には、今度は恐ろしいまでの高熱が襲う。
炎で身を焦がれるかのようだ。
汗が滝のように体中から流れていく。
「シロ?」
砂浜へ戻ると、シロが既に渡し船へ乗っていた。
だが、シロが向く方向は、大焦熱地獄があるはずの洞穴がある崖の窪みの方ではなく。更に灼熱の海を進むような形だ。
「シロやい。シロは、どこかでもう一つの洞穴を見つけたのですね。確かにこの灼熱の中では、元来た道を戻るのはよくない……」
私はオールを握ると、シロを信じた。
火柱がまた上がった。
今度のは更に更に大きい。
熱もさぞかし酷いのだろう……。
シロが向く。海に浮かんだ。まだ一度も来たことがない小島の沖には、確かに洞穴があった。
殊更に大きい口を開いた。巨大な地への穴だ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!