巫女と勇気の八大地獄巡り

勇気リンリンの地獄旅
主道 学
主道 学

8-52

公開日時: 2024年8月7日(水) 14:38
文字数:1,589

「ニャ―!」

「あった!!」


 そこで、シロが小島の右端にポツンと空いている巨大な洞穴を、運よく見つけてくれた。


 シロが先頭を歩き。私はその後をフラフラと追った。


 洞穴の中は、意外にも凍えるかのような寒さがあった。

 辺りは暗く。前方の方からビュウビュウとした風が巻き起こり。いや、猛威を振るっていた。


 風の音で、耳を傷め。耳を両手で抑えると、さっきまでの大汗の滴が、瞬時に凍る。私は、今度は肩に下げた布袋から、提灯を取り出すと、暖を取るとともに明かりを点けた。


「ニャーーー!!」

「あ!! シロ!」


 シロが突然、真っ直ぐに暗闇の中で走り出したのだ。

 この洞穴には、人魂がない。

 明かりは、手に持った提灯だけだった。

 それでも、私はシロが何かを、それも必死に探してくれるために走り出したのだと思った。


 提灯片手なので、この吹雪の中。シロを追って、私は走ることができなかった。辛抱強くゆっくり歩いていると、やがて、洞穴の出口だろう。そこに巨大な扉が見えた。


 扉の取手は、血で真っ赤に染まり。

 おびただしい血が地面に流れていた。

 ムッとくる血の臭いに、鼻をハンカチで抑えると、この扉の向こうには大叫喚地獄が広がっているはず。と、確信できた。


 シロはどこへ?


 ひょっとして?


「シロ! やーい!」


 巨大な扉に呼びかけてみると、「ニャー」と微かだがシロの鳴き声が返ってきた。


 そこで、自分の肩が震えていることに気づいた。ここからは、恐ろしい大叫喚地獄だ。血も凍るような呵責の場所。


 だけど私は、火端さんを思い出して、勇気を振り絞り。ここにいても仕方がないので、扉をゆっくりと開けることにした。


 扉を開ける。洞穴の外は、鉄で肉や骨を打ち砕き、切り裂き、突く音と共に、至る所から悲鳴が鳴り響く凄まじい場所だった。

 

「シロ!」


 前方には、シロが半透明な人型の魂の一人を追い立てて、こちらにやってくるところだった。追い立てられた半透明な人型の魂は、よく見ると、右手に高級そうな金の腕時計をはめている。

 

 私のすぐ傍までくると、両膝に両手をつけて項垂れた。まるで、ぜえぜえと息を整えているかのようだった。


「シロ? ああ、この人が広部康介!」

「ニャー」


 シロが首を垂直にして、後ろ足だけで立ち。広部康介だろう人型の魂を、チョンと右前足でつついた。


 なんて……。

 賢い猫なのだろう。


 私一人では、ここ広大で凄惨な大叫喚地獄で、広部康介を探せずに迷い途方に暮れていただろう。


 広部康介の人型の魂は、金の腕時計を外して、こちらに差し出した。


「え? 持って行けというのですか?」


 人型の魂が頷いた。

 広部康介は、何か思惑かやってほしいことがあるのだろう。


 私は高級な金の腕時計を受け取ると、シロを連れ、再び洞穴へ戻った。


 多くの人型の魂が呵責による苦痛や苦しみで、大絶叫している場所で、広部康介は、私に最後に頭を深々と下げていた。


 氷のような冷たすぎる空気の洞穴を、提灯片手に歩いていると、シロが先頭へ歩いてきた。焦熱地獄まで、シロが道案内をしてくれているかのようだ。


 ああ。また今度は来た道を戻るのですね。


 ビュウビュウと前方から、吹雪く粉雪の道をひたすら歩くと、洞穴を抜けた後には、今度は恐ろしいまでの高熱が襲う。


 炎で身を焦がれるかのようだ。

 汗が滝のように体中から流れていく。


「シロ?」


 砂浜へ戻ると、シロが既に渡し船へ乗っていた。

 だが、シロが向く方向は、大焦熱地獄があるはずの洞穴がある崖の窪みの方ではなく。更に灼熱の海を進むような形だ。


「シロやい。シロは、どこかでもう一つの洞穴を見つけたのですね。確かにこの灼熱の中では、元来た道を戻るのはよくない……」

 

 私はオールを握ると、シロを信じた。


 火柱がまた上がった。

 

 今度のは更に更に大きい。


 熱もさぞかし酷いのだろう……。




 シロが向く。海に浮かんだ。まだ一度も来たことがない小島の沖には、確かに洞穴があった。


 殊更に大きい口を開いた。巨大な地への穴だ。


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