「シロ?」
「ニャ―」
シロは、すぐに元来た道へ戻って、ニャーっと鳴きがら道案内を始めた。
「ああ、そういうことでしょうね」
「?」
「火端さん。シロはきっと、ドライアイスのあるところまで、安全かを確かめに行ってくれたのですよ」
「そうだったのか……シロ……」
音星がパッと明るい顔をして、シロの後を付いていった。
俺はシロにすごく感謝をした。
こんな外灯の明かりも全て消えている夜中の八天街で……。
この猫は……ただ親猫を失っただけじゃ済ませないんだな。
「火端さん。早く! シロを見失いますよ」
「さあて、俺も行こうか!!」
外灯の明かりもない。風もない。仕事帰りで賑わうこともなく。飲み屋の前にも行き交う人々がいない。ただ、夜の闇と夏の暑さと静けさだけが残る八天街。
ドライアイスはきっと、アイスを買ったコンビニにあるはずだ。シロもそれを知っているようだ。コンビニへの道を歩いている。
そういえば、ここら辺の建物の窓で、魑魅魍魎の姿がくっきりと映っていたっけ。
シロは、そんな中。車もない横断歩道を渡るため元来た道を走り出した。
俺の胸の中で、急にぞわぞわが戻り出した。
音星と一緒に、シロの後を走って追いかけると、信号機がジーッと鳴りだした。
ジー、ジー、ジー。
俺は音星の手を握ると、シロの後をシロの後ろ姿だけ見つめて、走る。俺たちの通り過ぎた道路が何か騒がしくなった。
「火端さん?」
「……シロの後ろだけを見ていようよ!」
「後ろが大変なことになっていますよ?」
「ああ……やった! たどり着いた!」
シロがコンビニの玄関ドアにたどり着いた。
音星の手を引っ張り、俺はコンビニへと急いで入った。
「いらっしゃいませー」
殊の外。コンビニの店員も胸の中がぞわぞわして不穏なのだろう。こちらに挨拶してきた。
入り口付近のアイスボックスを開けて、二、三ドライアイスを取り出すと、そのままジュースなどの飲み物が置いてある棚の冷蔵リーチインショーケースへ行く。種々雑多なジュースも持ち出すと、レジへと持って行った。
「火端さん。いっぱい買いましたね。それ、全部入ります?」
「おっとっと、この場で飲んでいこうか?」
俺は勘定を済ませると、すぐに音星を連れて、コンビニの外へと出る。駐車スペースで音星が、夜空を指差した。
「火端さん……ここでも、星々が見えますね。少し休んでいきましょう」
「ああ」
俺と音星は、こぞってクーラーボックスに入りきらないジュースの蓋を開けた。
「ふぅ――」
「はぁ」
思えば、ここ八天街へ来てからまだ一周間しかたっていないんだな。その間に色々なことが起きた。
おじさんとおばさんと、古葉さんに、柿谷さん。霧木さんに、そして、音星とは地獄で出会って、ホントに良かったよ。
俺一人では、すぐにダメだったはずだ。
等活地獄から、もう第六層の……。
これから、焦熱地獄へ行くんだな。
そこは、殺生、偸盗、邪婬、妄語、飲酒に、邪見をした罪人が落ちると言われている。
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