巫女と勇気の八大地獄巡り

勇気リンリンの地獄旅
主道 学
主道 学

5-29

公開日時: 2024年4月5日(金) 20:40
更新日時: 2024年5月20日(月) 16:56
文字数:1,171

  今日はもう休もう。

 音星の言う通りかもな……。


 もう、体力が尽きたわあ。


 ああ、疲れたー。

 休まないといけない。


「音星……ありがとな」

 

 民宿の玄関先までくると、俺は音星にお礼を言うと、音星はクスッと微笑んでいる。


 俺はあのままでは、妹を探せなかったんだ。

 大量の汗の掻き過ぎと走り過ぎで、疲れが限界になっていた。  


 そう思うと……俺は玄関先で、急にクラクラしたかと思うと崩れ落ちてしまった。


「ああ、大丈夫ですか? 火端さん!」


…………


「そりゃ、冷たいジュースやアイスばかり買ってちゃダメさねえ」

「え? どうしてですか?」

「そんなに大汗を掻くところなんだし、塩分が必要になって来るもんなんだよ。いいかい? 今度、地獄へ行く時には塩持ってきなさい。塩」

「はあ……」

「こんなこともあろうかと。巫女さんの梅干し入りおにぎりには、塩をたくさん使ってあったんだよ」

「え! はあ。そうだったんですか。ありがとうございます。そういえば、あのおにぎり塩辛かったわ」


 ……うん?

 ここはどこだ?


 近くで音星とおばさんの話し声が聞こえる。

 

 あ、そうか……。

 俺は玄関先で倒れたんだったな。

 

 うー、頭が今でもクラクラするぜ。

 きっと、熱中症だな……。


 熱中症!!


 そうか!

 今の話し声のおばさんの言う通りだ!


 地獄でも塩分が必要なんだ!


 俺は目を開けて、上半身だけ起き上がると、そこは丁度民宿のキッチン側にある客間だった。程よい広さの和室だった。柱時計が真ん中にある。壁には色々な形の提灯が並んでいた。


 立ち上がって、客間の長椅子に座る音星の方へ歩いた。その向いにおばさんがいる。俺のおでこにおいてあった濡れタオルが下へ落ちた。


「あ、火端くん! まだ寝てないと。今、お医者さん呼んだから。もう少し寝ていなさいな」

「あ、火端さん。お顔色がまだ優れていないようです」

「ああ……それじゃ、まだちょっと横になろうかな。……あれ? シロは?」


 客間にもここから見えるキッチンにも、シロがいなかった。


「シロ! シロ! ……あれれ? いないの? ひょっとしてまだ地獄にいるとか?」

「そうなんですよ。シロは叫喚地獄を出る時にはちゃんと手鏡には写っていたんです……ですけど、現世には戻ってきていないみたいですね」


 音星は顔を下に向けて、少し考えてから。


「きっと、シロのことです。大方。弥生さんを追ってどこかへ行ったのでしょう。心配してしまいますが、シロなら大丈夫ですよ」

「そうか……弥生。どこいっちゃったんだろう? あんだけ探したのになあ……。やっと、見つけたのになあ……」


 俺は明日、弥生をまた探そうと心に決めた。 


 だけど、お医者さんの話では、もう少し寝ていた方がいいということだった。そう言われると、まだ具合が悪かったので、渋々横になった。


 やっと起き上がって普通に走れるようになる頃には、音星の話では、あれから二晩も経っていたようだ。


 さすがに、マズいぞ。


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