巫女と勇気の八大地獄巡り

勇気リンリンの地獄旅
主道 学
主道 学

2-10

公開日時: 2024年1月20日(土) 11:55
更新日時: 2024年2月28日(水) 06:56
文字数:1,204

  コンビニ、雑貨屋、大衆酒場や洒落たレストランなどが建ち並ぶ。

 大通りをしばらく俺たちは歩いた。すると、音星は大通りから裏通りへと入っていった。


「おや? ここは?」


 音星が入った裏通りには、見覚えがあった。

 そこは、俺が最初に地獄へと行ったときに訪れた神社のある。あの裏通りだった。そして、音星はスタスタとまた歩いて行って、神社の傍にある宿泊施設へと入って行った。


「民宿??」


 音星の入った宿泊施設は、こじんまりとした民宿だった。

 

「巫女さん。おかえりー」

「こんにちはー」


 気前のよいおばさんが玄関先に現れた。音星はまた「こんにちは」といっていた。

 

「あの。この方は私のお友達の火端 勇気さんです。しばらくここでお泊りさせて頂けないでしょうか?」

「いいよ、いいよ、うちは巫女さんのお友達なら誰でも大歓迎さね」

「よう、ぼうずもか? そりゃいいが……寝床はどうするんだ?」


 おばさんの後ろから、大柄なおじさんがぬっと現れた。

 

「はあー、確かにそうだねえ。寝る場所がないわねえ」

「この通り小さな貧乏民宿だしなあ。ほれ、部屋は他のお客で満員だぞ。なあ、お前。そういや、二階の倉庫が空いていたっけなあ?」

「いやいやいや、それじゃあ、さすがに可哀そうじゃないかしらねー」


 おじさんとおばさんが、俺の寝床のことで首を捻って考えている。


「え?? 寝床がない?! 俺、寝袋あるから外でもいいけど……」

「あ、それでしたら、大丈夫ですよ。火端さんは私の部屋でもいいですよ。今の季節でもまだ夜は冷えますし」


「ぶーーーっ!! それはダメだ!!」

「ぶーーーっ!!」

「ぶーーーっ!!」


 おじさんとおばさんと俺が同時に激しく吹いた。


 大柄なおじさんが、腹を抱えて笑いだした。


「がははははは! 気に入ったぞ! ぼうず! それなら、俺の息子の部屋が空いているぞ。息子のことは気にしなくて良いんだぞ! 今は東京に行ってるからなあ。多分、数年はここに帰って来ることはないだろうからな! 自由に使ってやってくれ!」  


「あ、ありがとう!! おじさん! おばさん!」

「火端さん。良かったですねー」

 

 ああ、これでやっと布団で眠れる。

 思えば俺はここ八天街へ来るまでは、なんだかんだで野宿ばかりをしていたからなあ。


 色々あったけど、今日から暖かい布団で眠むれるんだなあ。

 

「ありがとな! 音星! 俺、今まで野宿ばっかりだったから……」

「そうなんですか? それは良かったですね。あの? ところで、ここの家賃はどうしますか? なんなら私が持ちますけど……」


 あ、宿賃?!

 俺の持ち合わせは……?!


「いや! ここは俺が払う!」


 俺は等活地獄の高熱でヨレヨレになった財布を、ズボンのポケットからやっとのことで取り出すと、屈んで床にひっくり返した。


 ジャラジャラと小銭と、僅かばかりの数枚のお札が床に降りだす。


「おお! ……まあ……なあ……」

「うーん……まあ、ねえ?」


 おじさんとおばさんが、呆れたような神妙なような顔を見合わせてから、こっくりと頷いた。


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート