巫女と勇気の八大地獄巡り

勇気リンリンの地獄旅
主道 学
主道 学

10-61

公開日時: 2024年8月28日(水) 09:52
更新日時: 2024年8月28日(水) 09:54
文字数:991

「自由落下で2千年!! 急いで落ちれば追いつく!! 待ってろよーーー弥生ーーー!!」


 俺は大海原の大穴へと落ちていった。


 中は真っ暗だ。所々から激しい濁流の轟音が木霊する。そして、何故か落ちれば落ちるほどに熱くなってきた。弥生はだいぶ下の方へ落ちたに違いない。


 兄であるこの俺が何とかしてやらないと!!


 でも、連れ戻す?


 蘇らす?


 改心させる? 考えを改めさせる? 罪悪感を気にしないほどに頬を引っ張たく。あるいは、抱きしめてやる?


 どちらも、無意味だった……。

 

 この穴へと落ちたら、もう終わりなのだから……。


 落ちる。


 落ちる。


 落ちろ!!


 もっと、落ちろー!!


「俺の身体!! もっと、落ちろーーー!!」


 落ちろ……。


 グングンと、俺の身体は阿鼻地獄の底へと落ちていった。


 だけど、妹の弥生の姿はまだ見えない。


 まだ、底へ向かっている。


 真っ暗闇だけど、そのことだけはよくわかるんだ。


 とても静かだった。


 俺の身体が落下する音すらしない。


 まるで、闇に音も吸い込まれるかのようだ。


「あーーー!! いた!!」


 目を凝らして、下方を見ていると、真っ暗闇の中だというのに、弥生の輪郭が浮き出ているところを発見した。


 落ちる。


 落ちる。


 落ちる。


 

 届いた!!

 

「弥生!!」

「兄貴!!」

 

 両手で弥生の両腕を握った。


 お互いにお互いの姿も見えないのだけど、涙声だった。


「兄貴! どうしてここまで?!」

「俺は、お前を家に連れ戻しに来ただけなんだ!!」

 

 俺たちはそのまま両腕を握り合いながら、そのままの速度で落下していった。

 

 グングンと落下する。


「……」


 弥生が俺を無言で見ているのが、感覚としてわかる。


 いや、何か言っているのかも知れないけど、まったく聞こえないや。


 その時、淡い光が弥生を包んでいく。


 暗闇の中でも、弥生の姿が。私服姿の弥生が見える。


 その後は、ニッコリ笑った顔を残して、弥生の身体が徐々に光の中へと消えていった……。


 俺は急に浮上していく。


 何かの力で、グングンと……どこまでも……。


―――


「火端さん? お願い目を覚まして」

「うん?」


 気がつくと、洞穴の地面に横になっていた。

 音星の背後には、大海原が広がっている。


「あ、悪いな……膝枕……」

「いえ、いいんですよ。それより火端さん青森県の私の家へ遊びに来ませんか? 家族を紹介したいのです」

「ああ、いいぜ」

「弥生さんの身体。ここから見ていても光っていましたね」

「そうなのか?」

「ええ」

「弥生はきっと転生したんだろうなあ」


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