「うっわー……交通事故悲惨だなあ。って、ええーー?! この女も火端って名前なんだな!! あ! ……マズイ!! ワリィ!! もしかするとごめん!!」
「いや、いいんだ……」
「ほんとごめんな!! あ、でもさ。この事件。裏が複雑なんだってな」
「裏?」
ちょうど、テレビには非合法組織のリーダー。あの大叫喚地獄で出会ったサングラスの男が写っていた。大勢の間でカメラのシャッターを切られながら、両手を服で隠して歩いている。
「そうなんだよ。最近はニュースでたまに出るんだよ。こいつ。サングラスの男が……名前は確か……広部 康介だ」
「そうなのか……でも、どうしてなんだろう?」
「……お、そういえば、お前の妹には兄貴はお前だけだったよな。二人もいないよな? なあ?」
「え?? どういう意味?」
「この男な。一時期お前の妹から兄貴と呼ばれていたって……この前の番組で観たんだ」
「え??」
「まあ、気にすんな! きっと、妹さんに何か事情があったんだろ」
「う……。うーん? うん?!
「ニャー」
古葉さんとテレビを観ていると、キッチンにはいつの間にか民宿に住んでいる皆が集まっていた。
「それねえ。交通事故起こした女の子が、その男の妹に似ているっていう話なのよ」
「ああー、きっと名前がなんだろうな?」
「いやいや、それがね。名前じゃないんだよ。あんた。確かねえ……あ、そうそう! 顔と年恰好がよく似てるって話さね」
「顔と年恰好だあ?」
「ええ、ええ。そうなの。この間なんてねえ。テレビで言ってたわよ。あの男。あれは妹だから、協力してもらっただけだって……」
「うー。そいつは……拳骨だなあ……」
おじさんとおばさんの話で、だんだんわかってきた。
俺の妹が広部の妹と、きっと、同世代なんだ。
妹の弥生を妹だという広部……多分、広部の妹は……。
もうこの世にはいないんだろう。
「うっわー、えげつねえなあ……」
「ニャ―ーー……」
古葉さんとシロが再びテレビの映像に顔を向けている。
俺もテレビを観てみると……?!
「うーん。これはなあ……」
「そうさねえー……。」
おじさんとおばさんが唸った。
「うーん。世の中広いようで、狭いのかもなあ……」
谷柿さんも唸った。
霧木さんと音星は終始無言だ。
テレビの映像では、広部の妹は広部の住んでいたマンションの一室で、変死していたと字幕に書かれていた。
あのサングラスの男。広部は、妹が変死していたのか?
それも自分のマンション内で……。
なんか大変なんだな。
でも、なんで妹を巻き込んだ? 普通に兄貴と呼ばれるだけじゃダメなのか?
そこにも何かあるのかも知れない。
今度、地獄で広部に出会ったら、聞いてみるか。
多分、広部はすでに亡者になっていたはずだから、獄卒の金棒によって、今じゃ半透明な人型の魂になっているはずだ。大叫喚地獄辺りをうろついているはずだ。
そうと決まれば、早速。明日にはクーラーバッグをクーラーボックスに替えておこう。これで焦熱地獄は大丈夫だろう。冷たい飲み物やアイスの他にドライアイスもたくさん買ってきて、また地獄巡りだ。
俺はそう考えると、音星の方を向いた。
音星は静かに目を閉じて考え事をしていた。
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