巫女と勇気の八大地獄巡り

勇気リンリンの地獄旅
主道 学
主道 学

7-42

公開日時: 2024年7月6日(土) 17:41
文字数:1,274

「うっわー……交通事故悲惨だなあ。って、ええーー?! この女も火端って名前なんだな!! あ! ……マズイ!! ワリィ!! もしかするとごめん!!」

「いや、いいんだ……」

「ほんとごめんな!! あ、でもさ。この事件。裏が複雑なんだってな」

「裏?」


 ちょうど、テレビには非合法組織のリーダー。あの大叫喚地獄で出会ったサングラスの男が写っていた。大勢の間でカメラのシャッターを切られながら、両手を服で隠して歩いている。


「そうなんだよ。最近はニュースでたまに出るんだよ。こいつ。サングラスの男が……名前は確か……広部 康介だ」

「そうなのか……でも、どうしてなんだろう?」


「……お、そういえば、お前の妹には兄貴はお前だけだったよな。二人もいないよな? なあ?」

「え?? どういう意味?」

「この男な。一時期お前の妹から兄貴と呼ばれていたって……この前の番組で観たんだ」

「え??」

「まあ、気にすんな! きっと、妹さんに何か事情があったんだろ」

「う……。うーん? うん?!

「ニャー」


 古葉さんとテレビを観ていると、キッチンにはいつの間にか民宿に住んでいる皆が集まっていた。 


「それねえ。交通事故起こした女の子が、その男の妹に似ているっていう話なのよ」

「ああー、きっと名前がなんだろうな?」

「いやいや、それがね。名前じゃないんだよ。あんた。確かねえ……あ、そうそう! 顔と年恰好がよく似てるって話さね」

「顔と年恰好だあ?」

「ええ、ええ。そうなの。この間なんてねえ。テレビで言ってたわよ。あの男。あれは妹だから、協力してもらっただけだって……」

「うー。そいつは……拳骨だなあ……」


 おじさんとおばさんの話で、だんだんわかってきた。

 俺の妹が広部の妹と、きっと、同世代なんだ。


 妹の弥生を妹だという広部……多分、広部の妹は……。


 もうこの世にはいないんだろう。


「うっわー、えげつねえなあ……」

「ニャ―ーー……」


 古葉さんとシロが再びテレビの映像に顔を向けている。

 俺もテレビを観てみると……?!


「うーん。これはなあ……」

「そうさねえー……。」


 おじさんとおばさんが唸った。


「うーん。世の中広いようで、狭いのかもなあ……」

 

 谷柿さんも唸った。


 霧木さんと音星は終始無言だ。


 テレビの映像では、広部の妹は広部の住んでいたマンションの一室で、変死していたと字幕に書かれていた。 

 

 あのサングラスの男。広部は、妹が変死していたのか?

 それも自分のマンション内で……。


 なんか大変なんだな。

 でも、なんで妹を巻き込んだ? 普通に兄貴と呼ばれるだけじゃダメなのか? 

 そこにも何かあるのかも知れない。

 

 今度、地獄で広部に出会ったら、聞いてみるか。

 多分、広部はすでに亡者になっていたはずだから、獄卒の金棒によって、今じゃ半透明な人型の魂になっているはずだ。大叫喚地獄辺りをうろついているはずだ。


 そうと決まれば、早速。明日にはクーラーバッグをクーラーボックスに替えておこう。これで焦熱地獄は大丈夫だろう。冷たい飲み物やアイスの他にドライアイスもたくさん買ってきて、また地獄巡りだ。


 俺はそう考えると、音星の方を向いた。

 音星は静かに目を閉じて考え事をしていた。


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