「と、トイレに行きたい」
女性店員が、恐る恐る言う。
その声は小刻みに震えている。
上手く呼吸が出来ないようだ。
その一言で呼気を出しきっている。
呼吸を取り込む時も過呼吸のように細かく数回に分けて吸う。
その声から極限に緊張しているのがわかる。
「トイレには行かせられない」
犯人が言う。
「私が人質をトイレに連れていくのはどうだい?」
橘は提案する。
「それも出来ない」
「そうか、残念だよ」
沈黙が続く。
「今、橘さん一人なのか?」
「一人だ」
「わかった、お前が人質をトイレに行かしてやってくれ」
「ありがとう、助かるよ」
私は穏やかに立ち上がる。
小部屋の扉がゆっくりと開いた。
女性店員が扉の前に立っていた。
ナチュラルメイクが涙によって崩れている。
穿いているズボンに失禁した大きな跡が付いている。
全身が震え、首もがくがくとしている。
足もぎしぎしと強張り、歩くのもやっとだ。
橘は手を差し伸べる。
女性店員は橘の手を握ろうと腕を伸ばす。
しかし、その腕は大きく震えて、定まらない。
橘はその手をきゅっと握る。
その時だった。
突然、自動ドアが開いた。
橘は自動ドアの方向へ振り返る。
橘は動揺を隠しきれない。
「一人じゃ無かったのか!」
犯人の激しい怒声が店内に響き渡る。
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