「記憶再固定化アルゴリズムを開始します」
女性の声が聞こえた。
満たされていた暗闇が、もやもやと晴れていく。
それと同時に人や車の雑踏が賑やかに聞こえ始めた。
「プログラムを再起動します」
女性の声が聞こえた。
暗闇が無くなり、視界は色合いを映した。
高層ビルやマンションの隣接して建ち並ぶ都会。
そのスクランブル交差点の中央に立っていた。
八車線の大道路には何台もの車が信号の青を待っている。
太陽光がビルの窓ガラスに当たり、ビルが朝焼けに染まる。
私の横を人々が通り過ぎる。
イヤフォンをつける人。
電話をする人。
会話をする人。
一人一人が何か目的を持って往来している。
せかせかと慌ただしい。
その歩みに合わせて息が白い。
白い息は雑踏にかき消される。
木枯らしが舞い、落ち葉が足元を転がる。
着ているコートの裾が木枯らしに合わせて揺れ動く。
スクランブル交差点の信号機が点滅を始める。
間も無く赤信号になる。
渡った人々は歩道を歩き、目的へ向かう。
きっと今から仕事なのだろう。
(そうだ、私も遅刻してしまう)
橘も人の流れに合わせて、スクランブル交差点を渡った。
車道が青信号になる。
車が行き交う。
橘は歩道を歩いた。
(今日は何も犯罪が起きなければいいんだが)
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