「俺は冒険系の漫画が好きなんだ」
「そうか」
橘は犯人の話を受け止めるように返す。
「冒険系の漫画は困難を乗り越えて成長していくから好きなんだ」
「なるほど」
一瞬、犯人の呼吸のリズムが変わり、会話のリズムが乱れる。
「俺には妻と息子が居てな」
「妻と息子が居るのか」
「ああ」
犯人は身の上話を始めた。
辛かったのだろう。
堰を切ったように話し始めた。
その話に「なるほど」、「それで」、「そうか」と相槌をする。
時々、犯人は身の上話に「はは」っと苦笑いする。
「俺、今日リストラにあってさ」
犯人はぽろっと呟くと話が止まった。
数秒沈黙して、橘は返した。
「リストラにあったんだね」
「そうだよ、毎日一所懸命に仕事してきた。それがこれだよ。どういう顔で家に帰ったらいいんだよ」
「毎日一所懸命に仕事してたのか、凄いじゃないか。私なんて少しでも手を抜こうと、事務作業を何とか擦り付けているさ」
「ははは、お前、本当に警察か?」
犯人の声が明るくなる。
口角が上がっているのが、声でわかる。
「警察って言ったって、会社員と何ら変わらないよ」
「お前、何て呼んだらいいんだ?」
「私は橘だよ」
「橘さんか、面白い警察も居るんだな」
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