「は? ふざけてんじゃねえ!」
橘は返答せずに、その小部屋の扉を背もたれにして座り込んだ。
「何があろうと、話すつもりもここから出るつもりも無い!」
犯人は続けて言い放った。
橘は持ってきた漫画本を広げて読み始めた。
沈黙が続く。
犯人の息づかいと被害者の震える息づかいが聞こえる。
漫画本を一冊読み終えた。
また違う漫画本を取りにいこうと立ち上がった。
その拍子に扉が、かたかたっと動いた。
「入ってきたら、この女を殺すからな!」
犯人は慌てて言う。
「いや、漫画本を取りに行くだけだよ」
橘は返した。
新たに漫画本を手に取り、再び扉を背もたれにして座った。
ひと気の無い漫画喫茶では漫画本のページを捲る音すら際立つ。
「橘さん、食事の用意が出来ました」
耳に付けていたイヤフォンに無線が流れた。
「やっと届いたか」
橘は立ち上がり、自動ドアから出る。
橘は菓子パンとペットボトルのミネラルウォーターが三つずつ入っているコンビニの袋を受け取る。
再び立て篭もる小部屋の前に立った。
「お前も食べるか?」
橘は犯人に言う。
「一人か?」
犯人は言う。
「ああ、一人だよ。店員の姉ちゃんもお腹空いただろうから渡したいんだけど」
「じゃあ、上から投げろ」
小部屋の扉は上部が僅かに開いている。
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