ノックスの街で冒険者登録を済ませたところだ。
受付嬢にお礼を言って、受付から離れる。
と、そのとき。
「おいおい。何だよ、オッサン。見たところ鍛えられてはいるが、丸腰じゃねえか」
「ギャハハハハ! 剣を買う金もねえのかよ!」
「何なら、俺の実家のクワでも貸してやろうか? その方がお似合いだぜ!」
そう下品な声をかけてきたのは、3人組のチンピラだ。
なるほど、俺が丸腰だから侮っているわけか。
先ほどから感じていた不穏な視線の正体は彼らのようだ。
侮られて絡まれるのは、めったにない経験である。
俺の鍛えられた体を見て絡むような命知らずは、地球にはほとんどいない。
せいぜい、銃を突きつけられて金を要求されたことが数回あるぐらいか。
懐かしい思い出だ。
「なんだ、お前たちは? その貧相な腕で剣を振れるのか? その辺の枝を振るのが精一杯な筋肉しかないようだが」
俺はそう言う。
彼らの腕は、実際のところ太くはないが細くもない。
日本のチンピラ基準でいえば、十分に上位に入るだろう。
しかし、挑発のためにあえて過小評価しておく。
少しは面白いことになるかもしれない。
「ああん!? てめえ、言ってくれるじゃねえか!」
「ギャハハハハ! 泣く子も黙る、俺たち赤い三連星にケンカを売るとはな!」
「覚悟はできてんだろうな!」
赤い三連星とやらの3人組が、凄みながら俺に近づいてくる。
腰に携えている剣は、どうやら抜かないようだ。
しかし、迫力がないな。
彼ら程度の肉体で凄まれても、大した脅威を感じない。
彼らが俺に絡むのであれば、銃か刀剣ぐらいは必須だと思うが。
格闘技で俺に勝てると思うな。
「リ、リキヤ殿……。ここは謝った方が……。彼らはCランク冒険者。実力は確かです」
受付嬢がそう言う。
Cランクは、中堅だ。
先ほどの説明では、E~Aランクまであるそうだからな。
ちなみに俺は登録したてのEランクだ。
彼女は俺の体を見て強そうだと期待してくれていた。
しかし、さすがに中堅冒険者の3人を撃退するほどの実力はないと思っているのだろう。
俺も過小評価されたものだ。
「ふん。お前たちがCランクだと? このギルドは相当な人材不足のようだな。同情するぜ」
俺はそう言い放つ。
申し訳ないが、受付嬢の忠告は無視させてもらう。
「て、てめえ!」
「泣いて謝っても、もう許さねえぜ!」
「ボコボコにしてやらあ!」
男たちがブチ切れてそう言う。
沸点が低い。
こういう精神的な強さも大切なんだぞ。
「そ、そこまでです! それ以上の狼藉は許しません」
受付嬢がそう言う。
声が震えている。
冒険者を管理する受付嬢という立場でも、やはり荒くれ者の相手は怖いのだろう。
「ああん!? 受付嬢ごときが何を偉そうに」
「俺たちのやることに文句あんのか!?」
「夜道には気をつけたほうがいいぜえ! ギャハハハハ!」
3人組が受付嬢にそう凄む。
冒険者とはいっても、半分はチンピラみたいなものだな。
全員がこうなのか、コイツラがたまたまこうなのかは知らないが。
精神的に未熟な者が半端な力を手に入れると、このようになってしまう者も多い。
「ひっ! し、しかし、ギルド内で争いごとを見過ごすわけにはいきません……」
受付嬢がビクつきながらそう言う。
既に半泣きになっている。
ギルド内での争いごとがダメなのか。
それなら……。
「ふん。俺がやるのは、争いではない。稽古をつけてやるだけさ。この三馬鹿にな」
稽古ならセーフだろう。
実際、俺がこいつらに負けることはあり得ない。
彼らは最低限は鍛えられている。
日本で言えば、なかなか気合の入ったチンピラといったところだ。
技術や判断力を身に着け、さらに体をもっと鍛えれば、まだまだ強くなれる。
将来的に俺のライバルとなることも不可能ではないかもしれない。
若者を導いてやることにしよう。
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