孤児たちに鳥の串焼きをあげようとしたら、逃げられてしまった。
俺の体格から、乱暴でもされそうだと思われたのかもしれない。
俺は俊足を活かして、逃げる子どもたちの前に回り込む。
「知らなかったか? この俺からは逃げられない」
というか、そもそも逃げる必要もないのだが。
「う、うわあああ! レオナおねえちゃんを守れ!」
「「うおおおぉ!」」
孤児の男の子たちが俺に立ち向かってくる。
年長の少女であるレオナお姉ちゃんとやらだけでも逃がそうという魂胆か。
「ふむ。俺に対して怯まずに立ち向かってくる度胸は認めよう」
子どもたちが俺をポカスカ殴ってくる。
ただし、一切のダメージはない。
「く、くそ! なんだこのオッサンの体は!」
「殴ったこっちの手が痛え!」
俺の鍛え抜かれた体は、大の男が振り回す金属製の剣や闘気を込めた木刀でもほぼダメージを受けない。
痩せぎすの子どもたちのパンチ程度では、蚊が止まったぐらいの感覚だ。
彼らと俺は身長差があるので、目や首などの急所を狙うことすらムリだしな。
……いや、1つだけ狙える急所があったか。
「ここはさすがに鍛えていないだろ!」
「くらえ! 玉潰し!」
「竿ちぎり!」
子どもたちがそう言って、俺の股間に攻撃を仕掛ける。
1人は玉を全力で握りしめ、1人は竿を握って引っ張ってくる。
「急所を狙う判断力もあるのか。悪くはない。だが……」
百戦錬磨の下半身は、その程度ではダメージを受けない。
俺は地球において、表のきれいな試合だけではなく、裏世界の何でもありの戦いにも身を投じていたからな。
急所に対する攻撃への対策も万全なのだ。
俺は子どもたちの頭を優しく掴む。
彼らは逃げようとするがーー。
「は、離せやコラァ!」
「びくともしねえ……!」
優しくとはいっても、子どもの力では容易に抜け出せない程度の力は込めている。
「いかんせん、力が弱すぎるな。その力では、せいぜいマッサージにしかならん。俺の下半身をお前たちがほぐしてくれるのか? 俺にそういう趣味はないのだが……」
この孤児の男の子たちは、まだ幼いだけあって中性的な外見をしている。
頭の中で女だと思いこめば、ギリギリ何とかならなくもないかもしれない。
人生、何事も経験か?
「ぐあああぁっ! や、やめろぉ!」
「ひいいいいぃっ!」
俺の視線を受けて、男の子たちがそう悲鳴を上げる。
「や、やめてください! 私たちが気に障ったのであれば、謝ります!」
後方で様子を見ていたレオナがそう言う。
いかんな。
本題を忘れていた。
話を戻そう。
「何かを得ようとすれば、何かを失う。こいつらを助けたければ……わかるな?」
「は、はい……」
レオナが観念したような顔でそう言う。
わかってくれたようで何よりだ。
この串焼きをたくさん食べて元気になれば、体を鍛えてもらうことになる。
厳しい鍛錬になるだろう。
とはいえ、一時的にはつらくとも、子どもたちにとっても強くなることは悪いことではない。
街のチンピラたちに抵抗できるようになるからな。
そして数年後には、俺のライバルとなれるような者が出てくるかもしれない。
「ガハハ! こいつは楽しみだ!」
俺はまだ見ぬ強者との戦いを空想して、思わず笑みをこぼした。
「あ、あの……。できれば人目のつかないところで……」
レオナが何やら悲壮な顔でそう言う。
串焼きを食べるのに、わざわざ移動する必要もないと思うのだが。
「よかろう。よし、ガキどももいっしょに付いてこい」
俺はそう言う。
少女と、男の子数人。
全員に腹いっぱい食べさせられるぐらいの量は買っている。
「ひっ……。みんなもいっしょにですか……?」
「不服か?」
いったいどうしたというのだろう?
この世界には、人前で食事をとらないという風習でもあるのだろうか。
フィーナやエミリーと過ごした限りでは、そんなことはなかったと思うが。
そうだ。
まずはエミリーに合流するか。
彼女は大通りのところで待ってもらっている。
せっかく街の案内をしてくれていたのに、ずっと放置も悪い。
俺はレオナや男の子たちを連れて、裏路地から表通りに向けて進み始めた。
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