「ふんっ! ふんっ!! ふんっ!!!」
俺は筋トレを続けている。
心地良い疲労感とともに、体の奥底から力が湧いてくるようだ。
俺が満足感に浸りつつ、次に腹筋や背筋のトレーニングを考えているときだった。
(へへっ。お前が心配するから、これだけの増援を集めてきたぜ。さっさと片付けちまおう)
扉の向こうから、ささやき声が聞こえてきた。
俺が昼寝と筋トレをする前に、天井裏に潜んでいた奴の声だな。
(でもよぅ。あいつはタダモノじゃないぜ? この人数でも勝てるかどうか……)
心配げな声が上がる。
こっちは、同じく天井裏に潜んでいた奴のうち、俺と目が合った方の声だな。
(お前は心配しすぎなんだよ。この人数で負けるはずがねぇ)
(…………)
(それに、あれから2時間は経過した。間違いなく、痺れ毒も効いているはずだ。そうだろ?)
(だが、念には念を入れて確認した方が……)
(もうそんな時間はなくなっちまった。増援を集めるのに時間を使っちまったからな。これ以上遅れれば、領主様から怒られちまうよ。ほら、突撃するぞ! 野郎共、準備をしろ!!)
男たちはそんなことを呟く。
この2人の他、増援とやらが数人以上いるようだな。
確かに、普通に考えれば向こうが負けるはずがない。
部屋の中にいるのは、自称腕自慢のCランク冒険者とはいえ、痺れ毒で倒れているはず。
そこに、応接室という密室で多人数で囲むわけだからな。
(だが、残念。自分で言うのもなんだが、俺は普通の男とは違うぞ? ふふふ、楽しみだな)
俺はそんなことを考えつつ、荷重付きの片足スクワットを続けていく。
心地良い疲労感とこれからの戦闘への期待感で、ハイになっちまいそうだぜ。
俺が今か今かと待ち構えていたときだった。
ガチャリ……。
扉が静かに開いた。
(む? てっきり、突撃してくるのかと思ったが……)
いや、そうか。
奴らの考えでは、俺は痺れ毒で倒れているはずだったんだ。
場合によってはそのまま眠っている可能性も考慮したのだろう。
眠っている者を起こさないように静かに入るのは、合理的な判断だ。
しかしもちろん、俺は眠ってなどいない。
絶賛筋トレ中である。
「ふんっ! ふんっ!! ふんっ!!!」
「「「…………」」」
突入してきた数名の男達は呆然と立ち尽くしている。
おそらく、俺が元気にスクワットをしているから驚いてしまったのだろう。
俺は彼らに視線を向ける。
「ようこそ、俺の部屋へ。後少しでキリのいいところなんだ。少し待っていてくれ」
「……え? あ、ああ。はい……」
襲撃者のリーダー格の男は、動揺しながらも何故か丁寧語でそう返答したのだった。
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