街の路地裏で、複数の男たちに囲まれている少女を見つけた。
少女は獣人で、奴隷らしい。
とりあえず俺は、奴らの前に歩いていく。
彼らが俺に気づく。
「……ん? なんだ、お前?」
「どこから来た?」
「ここは関係者以外立ち入り禁止だぜ」
男たちがそう言って、こちらに近づいてくる。
「ふむ」
俺はとりあえず、彼らを観察する。
いかにも小悪党といった感じの男どもだ。
こいつらがどんな悪事を働いているのかは知らんが、弱そうな連中であることは間違いない。
「おい! 聞いてるのか!?」
男の一人が、そう言って殴りかかってきた。
俺はそれを片手で受け止める。
「な……ッ」
男は驚いた顔をする。
俺はそのまま、男の拳を握った手に力を込めた。
メキィ、と嫌な音がして、男が悲鳴を上げる。
「あ、あああ……。て、手が……。俺の手がああっ!!」
「うるさい。静かにしろ。軽く骨を折った程度だ」
俺は淡々と、冷静な口調で言った。
全力を出せば再起不能なレベルで拳を潰すことも可能だが、さすがにそこまではしない。
もしかすると、この少女が極悪人でこの男たちが実は善人という可能性も0ではないからな。
まあ、ほぼ0だろうが。
「ひぃ……」
男は戦意を喪失し、その場にへたり込む。
「てめえ、やりやがったな!!」
「くたばれ!!」
別の男がナイフを取り出し、俺に向かって突き出してくる。
「ふん」
俺はその手首を掴み、捻り上げる。
「いでででででででででででで!!!」
「安心していいぞ。死なないように加減はしてやる」
俺はそう言いながら、さらに力を込める。
「ぎゃああああああああああぁっ!!」
男は絶叫し、気絶した。
さて。
これで残り二人か。
「て、てめえ……」
「くそっ!」
残った二人は、じりっと後ずさりする。
「ふむ」
俺はそこで、一旦戦闘態勢を解除する。
「一応、事情を聞いておこうか。いたいけな少女を痛めつけていた事情をな」
別に、俺は虐げられている奴隷がかわいそうだから助けたわけではない。
強さの探求のためだ。
こんなふうに力で幼い子どもを押さえつけていては、芽吹く才能も芽吹かない。
栄養もずいぶん足りていない様子だしな。
それに、この少女は猫の獣人だ。
人間にはない身体能力や特殊な能力を持っている可能性もある。
おいそれと見過ごすわけにはいかない。
「ああ? 事情だと? そんなの、そいつが俺たちの雇い主の奴隷だからだよ!」
「奴隷の分際で逃げようとしやがったからな! きちんと躾けて連れ戻そうとしただけだ!!」
男たちが口々に言う。
「なるほど」
こいつらが小悪党なのはほぼ間違いないだろうが、この国この街における最低限の正当性は持ち合わせているようだ。
「ちょっと眠ってろ。【指弾】」
俺は指パッチンの要領で、空気の塊を男たちに飛ばす。
「「ぐぼおっ!?」」
男たちはそんな悲鳴を上げて、倒れた。
もちろん手加減はしている。
そのうち起き上がってくるだろう。
それまでに、済ませておきたいことがある。
俺は少女に向き直る。
彼女の意思を確認しておくことにしよう。
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