領主邸を訪れた俺は、門番からメイドへと取り次がれた。
「ようこそおいでくださいました。私はメイドのサキと申します」
女性が丁寧にお辞儀をする。
流石貴族の屋敷で働く使用人だ。
物腰が柔らかい。
「うむ。俺はCランク冒険者のリキヤだ。よろしく頼む」
「応接室にご案内します。こちらへどうぞ」
「分かった」
俺はサキの後に続いて廊下を歩く。
「凄いな……」
思わずそんな言葉が漏れてしまった。
なんというか、綺麗な場所なのだ。
高い天井。
煌びやかな調度品の数々。
貴族様はいつもこんな環境で暮らしているのだろうか?
パッと見の贅沢さだけで言えば、地球の富豪にも引けを取らないように見える。
(まぁ、やや華美すぎる気もするが……)
俺は、金持ちには節度が必要だと思っている。
地球では戦いや刺激を求めて日常的に旅をしており、世界各地の富豪や支配者たちに招かれることもあった。
その経験から言わせてもらえば、この屋敷の雰囲気は気に入らない部類だ。
そんなことを考えながら歩いていると、とある部屋にたどり着いた。
メイドのサキに案内され、中に入る。
「こちらに座って少々お待ち下さい」
勧められたソファに座ると、俺は部屋の内部を見回した。
広い空間にはふかふかなカーペットが敷かれており、部屋の隅には高そうな壺が置かれている。
まさしくお金の匂いを感じさせる内装であった。
(あの壷、いくらするんだ?)
俺は壺に詳しくない。
だが、いかにもな感じで飾られているところから察するに、金貨100枚以上しても不思議はないな。
俺はネネコを奴隷として金貨200枚でもらい受けた。
だがあれはおそらくふっかけられただけで、本来の適正価格は金貨100枚だったはずだ。
そう考えると、この応接室だけでも相当な額の調度品が飾られていると思われる。
(盗賊の被害に遭って苦労したフィーナやエミリー、孤児のレオナ、獣人のネネコ……。彼女たちは必死に今を生きているというのに、まったくここの領主ときたら……)
俺は思わず呆れてしまう。
「お茶をお持ちしました」
「ああ。ありがとう」
俺が茶に手をつける。
「む……?」
「ど、どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない。美味い茶だ」
俺は言葉を濁しておく。
この程度の痺れ薬、俺には通じない。
適当に飲んだふりをしておこう。
「それで、領主様は?」
「現在、ご用意中でございます。もう少々お待ち下さいませ」
サキはそう言って、部屋から退出していった。
さて、どうなることやら。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!