「この壺を元に戻せばいいのか?」
弟子入り志願者たちにトレーニングを課したかったのだが、横槍を入れられてしまった。
まぁ、俺としてもずっと持っている意味はない。
言われた通りに戻してやろうではないか。
「あ、ああ。いいか? くれぐれも丁重に――」
「よっと」
俺は無造作に壺を棚の上に置く。
100キロはある大きな壺だ。
俺にとっては極端に重いというわけではないのだが、なにせこれまで長い時間筋トレをしていたからな。
心地良い疲労感は感じている。
丁重に置くのではなく、多少荒っぽくなるのは仕方がない。
「ひいぃっ!? ちょ、待てよ! か、欠けたりしていねぇだろうな!?」
「ん? そんなことはないと思うが……」
多少荒っぽく置いたとはいえ、壺が破損するほど雑に置いたつもりはない。
「テメエ、この壺がいったいいくらすると思ってやがるんだ!」
リーダー格の男から詰め寄られる。
ああ、そう言えばそれなりに高そうな壺だったな。
筋トレモードに入った俺には、ただの重りにしか見えなくなっていた。
「そうだな。金貨100枚くらいか?」
「金貨300枚だ! 万が一壊れたりすれば、弁償してもらうぞコラァッ!!」
「ほう。思ったよりも高かったな」
ネネコの本来の販売価格が、金貨100枚だ。
ネネコ3人分か。
いかにも高級そうで、しかも大きいとはいえ、たかが壺がなぁ……。
(ふむ。いいことを思いついたぞ)
この壺の持ち主は、ほぼ間違いなくこの屋敷の主である領主だろう。
だが、この様子であれば、リーダー格の男にも壺の管理責任のようなものがあるようだ。
もしくは、普段から領主と懇意にしていて、本来は自分に関係のない壺でも破損を見逃せないか。
いずれにせよ、この状況を逃す手はない。
「おっと、手が滑った」
俺はそんな声と共に、壺を敢えて傾ける。
それはバランスを崩し、ゆっくりと棚の上から落ち始める。
「な、なにぃいいっ!!??」
「ちょ、ちょちょちょっ!!」
「待てよぉぉおお!!」
リーダー格を含めた数人の男が素早く反応した。
彼らが落ちる壺を受け止めようと駆け出す。
そして、ヘッドスライディングの要領で壺に手を伸ばした。
(ほう。悪くない反応速度じゃないか)
だが、ギリギリ間に合わないな。
間に合ったとしても、100キロ以上の重さをヘッドスライディングの姿勢の手で支えられるとは思わない。
「なんちゃって」
俺は壺が床に当たる寸前で、壺の落下を止める。
そして、それを持ち上げ、元の場所に戻す。
ズシャアアァッ!!
壺が落ちてこなかったことで、男たちは何もない場所にヘッドスライディングをする形となった。
盛大にすっころんで倒れており、なかなか滑稽だ。
「うむ。お前たちの反応速度と脚力を見せてもらったぞ。期待できそうだ」
「て、テメエ……」
「ふざけやがって……」
「はぁ、はぁ……」
男たちは恨みがましい視線を向けてくるが、些細なことだ。
「よぉし! まずは腕立て伏せから始めるぞ! 全員、構えぇっ!!」
俺は有無を言わさずそう指示する。
男たちは文句を言いたそうな顔をしていたが、俺が少し凄むと大人しく従い始めた。
(うむ。たくさんの弟子をゲットだ。俺は満足したぞ。……ん? そう言えば、何か本来の目的を忘れているような……)
腕立て伏せをする男たちを眺めながら、俺は首を傾げるのだった。
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