ネネコに絡んでいた酔っ払いを追い払った。
「大丈夫だったか?」
「は、はい。ありがとうございました。助かりました」
ネネコは深々と礼をする。
「気にするな。それより、ケガはないか?」
「はい。アタシは平気です」
「そうか。しかし、ネネコも抵抗していいのだぞ? いざとなれば俺が責任を取る」
奴隷は一切の抵抗を許されていないとか、そういうわけではないだろう。
法的には、彼女は俺の所有物だ。
第三者が勝手に俺の所有物を傷つけることは許されない。
ネネコ自身が抵抗することも許されていいはずだ。
「ええと……。アタシなんかが男の人に抵抗したら、余計にひどいことをされちゃいます……」
……ふむ。
そういうことか。
言われてみれば確かに、奴隷云々は別としてもネネコが抵抗することは難しかったかもしれない。
相手は酔っ払いとは言え大の男。
そしてネネコは10代前半くらいの少女だ。
鍛えていない少女の力では、抗えるものではないだろう。
「……そうかもしれんな」
「はい。ですから……」
「よし。では、俺が鍛えてやろう。筋肉と技術を手に入れれば、大抵のことは解決できるぞ?」
我ながら、いい考えである。
俺が彼女を鍛えれば、彼女は抵抗する力を得る。
彼女にとっては明確なメリットがあるわけだ。
それに対して、俺にもメリットはある。
まずは、獣人という未知の種族の身体能力や特性について学ぶ機会を得ることができる。
もし彼女が類まれなるセンスを持っていれば、将来的に俺のライバルとなってくれるかもしれない。
俺のライバルには一歩足りなかったとしても、彼女がまた別の者を指導するようになれば、その者の中から俺のライバルが出てくるかもしれない。
もしくは、日々の冒険者活動を手伝ってくれるだけでもいい。
協力的な人手が増えれば、俺の冒険者ランクも上がりやすくなるだろう。
高ランクになれば、その分いろいろな面で最強に近づく。
上げておいて損はない。
「え?」
「ネネコ、お前は強くなりたいか?」
「そ……それは……もちろん、強くなれるものならなりたいとは思いますけど……そんなの無理です……」
「なぜだ? 訓練すれば誰でも強くなることができる」
「だって……。アタシは奴隷ですし……。それにきっと、アタシは戦うことに向いていません」
なるほどな。
彼女にとって、強さとは憧れの対象ではあっても目指すものではなかったというわけか。
奴隷という身分に加えて、やや気弱な性格ならそう思ってしまうのも無理はない。
「どうして諦めるんだ? 人間には無限の可能性がある。それはネネコ、お前も同じだ」
「で、でもっ」
「俺を信じろ」
俺はネネコの肩に手を置く。
そして、彼女の瞳を正面から見据えた。
「は、はい」
ネネコが顔を赤らめる。
「そうだな。まずは基礎体力をつけるところから始めよう。とりあえず、今日はこの果実水を飲んでゆっくり休め。宿屋に向かうぞ」
「はい!」
ネネコは嬉しそうな顔で返事をしたのだった。
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