「ひ、ひいいぃっ!? こ、こんな街中に山賊が!?」
酒屋の店主らしき中年男性が震えていた。
まるで俺が極悪非道の限りを尽くす大悪人であるかのようだ。
「まあまあ、落ち着いてくれ。俺たちはただ、酒をもらいに来ただけだ」
「わ、分かりました……。店にある酒は全て差し上げますので、どうか命だけは……」
「いやいや、金はちゃんと払うから。そうだな……。この大樽を5つもらおうか」
「は、はい。馬車でお届けします。どちらに運べばよろしいでしょうか?」
「いや、馬車は不要だ」
「へ? しかし……」
「おいっ! 野郎共!! これぐらいの大樽を運ぶ程度の気力は残っているよなぁ!?」
「「へいっ! 親分!!」」
俺の呼びかけに、チンピラどもが威勢よく答える。
その言葉通り、彼らは大樽を持ち上げた。
1つあたり2人掛かりではあるが、筋トレ後の肉体であることを考えれば現状では悪くない身体能力だ。
「よぉし! それでは領主邸に戻るぞっ!!」
「「「おおおおぉっ!!!」」」
俺は店主に金を払い、酒屋を後にする。
人通りがやや少ない、暗い道に入ったときだった。
「――ん?」
何者かに尾行されていることに気づく。
「どうしたんですかい? 親分」
「誰かに後をつけられている。恐らく、単独だ」
「な、なんと!?」
「そいつは穏やかじゃないですねぇ」
「俺たちを尾行だと!? 舐めやがって!」
チンピラ共は、街の住民にずいぶんと嫌われている様子だった。
悪意を持った者に尾行されるのも仕方がないだろう。
だが、コイツらは俺に弟子入りしたのだ。
これから性根を叩き直してやる予定である。
このタイミングで横槍を入れられるのは気に入らない。
俺がそんなことを思っているときだった。
「ぐぎゃっ!」
「ちょ、待て……」
「おやびぃん……」
後方のチンピラ共が次々に倒れた。
おそらく、俺を尾けてきた奴に不意打ちを喰らったのだろう。
「……」
俺は静かに振り向く。
するとそこには、小さな少女がいた。
夕暮れ時でちょうど人通りが少ない道であり、暗くてよく顔が見えない。
それは向こうも同様だろう。
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