天井裏の覗き人と目が合ったところ、相手が取り乱してしまった。
(ひ、ひいぃ……)
(落ち着けって。それで、どうする? もう実行してしまうか?)
(バカかっ! あんな化け物と戦えるハズがない。この距離で天井裏に隠れている俺を見つけちまうような奴だぞ!)
そんな声が聞こえてくる。
俺としては、お仲間でも呼んで襲ってきてくれた方が刺激的で楽しいんだけどな。
ただ視線が合っただけなのに、ずいぶんと萎縮させてしまっている。
(だから、それは気のせいだって)
(それだけじゃねぇ! 痺れ薬だって効いていないじゃねぇか! 魔法か魔道具か……。相当ヤバイもんを使ってやがるぜアレは……!)
なるほど。
奴らが茶に盛った毒を無効化してしまったのも一因になっているらしい。
ちなみにだが、俺はもちろん魔法や魔道具なんて使ってはいない。
最強を目指す上で取り入れてもいいのだが、どちらかと言えば自らの肉体で戦う方が好きだからだ。
それにそもそも、そういったものに関わる機会がないという事情もある。
俺が毒を無効化したのは、単純に肉体の強さだ。
鍛え抜かれた俺の強靭な体は、そんじょそこらの毒でどうにか出来るものではない。
飲んだときに違和感はあったが、ただそれだけのことだ。
(俺は抜けさせてもらう! どこか遠くの国に……)
(おい、待てってば!)
1人が去ろうとして、もう1人が引き止めている様子だ。
面倒事を避けるという意味では、このまま放置してもいい。
だが、それでは少しつまらない。
ここは――
「イテテ! 何だか体が痺れてきたぞぉ!!!」
俺はそう言いながらソファに倒れ込む。
我ながら、迫真の演技である。
((…………))
天井裏の2人も、俺の演技に目を引かれているようだ。
俺はそのまま、さらに大声で喚く。
「ああ、これはマズいなぁ! 俺はこんなところで死んでしまうのかぁ!!!」
俺が演技を続ける。
(ほら見ろ、痺れ毒は効いているじゃないか)
(本当にそう思うか? 何だかわざとらしいような……)
(分かった分かった。なら、念のためもう少し様子を見ようぜ。増援も呼んでおく。それでいいだろ?)
(あ、ああ……。それなら……)
よしよし。
どうにか話がまとまりそうだ。
ここらで仕上げの演技をしておこう。
「ぬおおぉっ! 体が痺れるぞぉ!! ここで寝て回復するしかない!!!」
俺はそう叫ぶと、ソファの上で目を閉じた。
((…………))
天井裏から何とも言えないような雰囲気を感じたが、きっと気のせいだろう。
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