ネネコを購入して1か月ほどが経過した。
「はあっ!」
彼女が正拳突きを放つ。
ここは宿屋の裏庭である。
彼女は俺の奴隷となって以来、毎日のように鍛錬を行っている。
「ふむ……。いい感じに仕上がってきたようだな」
彼女の動きを観察しつつ、俺はつぶやく。
1か月前とは比べ物にならないほどの動きを見せている。
ちゃんとした食事を摂るようになったこともあり、体の各部に筋肉が少しずつ付いてきている。
「ありがとうございますぅ!」
ネネコは嬉しそうな笑顔を見せた。
「よし。では、そろそろ冒険者デビューをしてもらおうか」
「わかりました! ……でも、大丈夫でしょうか?」
ネネコが不安げな顔になる。
「まあ、何とかなるさ。危ないときは俺が守るしな」
獣人のネネコには、ぜひとも強くなってもらい、将来的に俺のライバルになってほしい。
とはいえ、いきなり厳しい実戦に放り込むほど俺も鬼ではない。
まずはこうして鍛錬に時間を割いた。
その次は実戦だが、極端に危ない魔物とはまだ戦わせるつもりはない。
「だが、そうだな。ネネコの不安も分かる。……ふむ。いいことを思いついたぞ」
俺の視界に、ちょうどいい人物が入ってきた。
赤い三連星の奴らだ。
「今日も時間通りに来たな。なかなか殊勝じゃないか」
俺はそう声を掛ける。
こいつらには、ゴブリンの討伐作戦以来、定期的に稽古をつけてやっている。
以前よりも多少はマシな動きになってきたところだ。
「けっ。来ねえと、ゴチャゴチャうるせえからな」
「オッサンのしつこさは知っている。ギャハハハハ!」
「そーそ。もう諦めてるってわけ」
3人がそれぞれ答える。
「そうかそうか。お前らが素直で助かるよ」
俺は微笑みながら言う。
「ところで、また何か企んでいるのか?」
リーダー格の男が尋ねてくる。
「別に企んでいるわけではないがな。ネネコに試合をさせてやろうと思っているのだ」
「ネネコっつーと、そっちの獣人のことだったな? いくら獣人とはいえ、こんなガキが俺たちの相手になるとは思えねえんだがな」
「ふっ。それはどうかな?」
俺はこの1か月間、付きっきりでネネコに指導をしてきた。
獣人は、体の動かし方を覚えるのが早い。
みるみるうちに吸収していった。
対する赤い三連星の3人に対する指導の頻度は、それほど高くなかった。
元々がCランク冒険者なので最低限の戦闘能力はあるが、それが急激に伸びたわけではない。
果たして、今のネネコと彼らではどちらが強いか。
微妙なところだと思っている。
Cランク冒険者に勝つか善戦できれば、ネネコの自信に繋がるだろう。
「ネネコに負けるのが怖いか?」
「なっ!? 誰がそんなこと言った!?」
「では、試合をできるな?」
「できらぁっ!!」
売り言葉に買い言葉。
こうして、赤い三連星のリーダー対ネネコの試合が決まったのだった。
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