フィーナの村を出発してから数日が経過した。
そして、とうとう街が見えてきた。
「ふむ。なかなか大きな街だな」
俺はそうつぶやく。
人口は、軽く1000人はいそうだ。
「そうですね。私も行商で何度か寄ってきましたが、このあたりでは比較的大きな街です」
エミリーがそう言う。
彼女の表情はまだまだ暗いが、馬車に揺られながら多少の心の整理はつきつつあるようだ。
そのまま、街の出入り口にたどり着く。
門番がいる。
「ノックスの街にようこそ。入街には、審査が必要だ」
門番がそう言う。
何やら入街の手続きが必要なようだ。
俺は、そのあたりの知識がない。
エミリーの両親に手続きを任せる。
入街料がいくらか必要だったようだ。
エミリーの両親が立て替えてくれることになった。
「悪いな。出させてしまって。俺には手持ちが一切ないんだ」
こうなるぐらいなら、ビッグボアやミドルボアの肉を村人にあげたときに、少しだけでももらっておくんだった。
村長たちも、まさか俺が完全な無一文だとは思ってもいなかっただろう。
「いや、これぐらいは払わせてくれ。リキヤ殿にはお世話になりっぱなしだからな」
エミリーの父親がそう言う。
ここは彼の言葉に甘えるしかない。
盗賊どもを奴隷として売り払えば、今回の分も含めて返してやることにしよう。
そんなことを考えつつ、俺は入街の処理が終わるのを待つ。
「それで、後ろの男どもはなんなのだ?」
門番がエミリーの父親にそう尋ねる。
「ああ。こいつらは、あのブラック盗賊団さ。俺も襲われてしまったのだが、こちらのリキヤ殿に助けてもらったのだ」
エミリーの父親がそう説明する。
門番が俺のほうをチラリと見つつ、まずは盗賊たちの見分を始める。
「な、なるほど……。確かに、ブラック盗賊団のようだ。幾人か、指名手配されている者もいる……」
門番が盗賊どもの顔を順に見ていく。
「……むっ! こ、こいつは。ブラック盗賊団の頭領、漆黒のシュバルツ! Bランク冒険者でさえ手こずると言われるこいつを撃破したのか。それも、ただ討ち取るのではなく、捕縛する余裕まであるとは……」
門番がそう言って、驚きに目を見張る。
「全てはこちらのリキヤ殿のお力です。近隣の村の若者たちも手伝っていたそうですが、ほぼリキヤ殿の力と言っても過言ではありません」
確かに、彼らは俺に付いてきていただけだ。
俺と盗賊どもの戦いを間近で見たのは、いい経験にはなっただろうが。
「なるほど……。相当にお強いようですな」
門番が俺を見て、そう言う。
俺の実力に気づいたのか、口調が少し丁寧になっている。
俺は自慢ではないが、技術だけではなく体もちゃんと鍛えてある。
実際に戦うところを見せるまでもなく、見る人が見れば実力はある程度分かるものだ。
「ああ。まあそいつら程度であれば、相手にもならん。頭領もそこそこ程度だな」
「それはすごい。では、身分証として冒険者カードを拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」
「冒険者カード?」
もちろん俺はそんなものは持っていない。
「おや。てっきり、高名な冒険者の方かと思いましたが」
「いや、俺は武者修行の旅の途中でな。冒険者ではない」
冒険者とは何だ?
未知の領域を冒険して切り拓く者のことか?
「左様でしたか。山間部の村を通って来られたのでしたら、そのようなこともありますか。この街には、冒険者ギルドがあります。ブラック盗賊団を壊滅させるような方でしたら、冒険者としても稼げるでしょう。よろしければ登録をオススメしますよ」
「わかった。検討しよう」
冒険者とやらが何かは知らないが、この口ぶりからすると傭兵みたいなもののようだな。
戦闘能力さえあれば、活躍できる職業のようだ。
そんな会話をしつつ、門を通される。
エミリーの父親が口を開く。
「さて。リキヤ殿。門番の者も言っておりましたが、冒険者ギルドに行ってみますか? できればその前に、この盗賊どもを奴隷として売却しておきたいのですが」
「そうだな。冒険者ギルドも気になるが、まずはそっちが先だな」
捕縛しているとはいえ、10人以上の盗賊たちを連れて街を歩き回るのもな。
万が一こいつらが逃げて町民に被害が出れば、俺たちの責任も追及されるだろう。
さっさと売却して、金に換えておくことにしよう。
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