領主が俺との約束をドタキャンした。
暇つぶしにいろいろやったので、待っていた時間が丸っ切りムダになったわけではない。
だがそれでも、完全に自由な時間と比べればできることは限られていたし、トレーニングの効率は少し落ちてしまっていた。
「わ、私に言われましても……」
サキが涙目になる。
確かに、悪いのは領主だな。
彼女は悪くない。
この程度で機嫌を損ねてメイドに八つ当たりをするなど、俺の精神力もまだまだだ。
「すまんすまん。別にサキを責めているわけじゃないんだ」
領主は、チンピラどもによる俺への襲撃が不発に終わったことを察したのだろう。
次善の策を練るため、今日のところは追い返そうといったところか。
「そ、そう言っていただけるとありがたいですが……」
「ふむ。とりあえず、わかった。だが、そうだな……」
「まだ何か?」
「埋め合わせとして、君が俺のディナーに付き合ってくれないか? 昼飯も出されずに長時間待たされてしまって、空腹でな」
空腹は筋肉の敵だ。
満たさねばなるまい。
今は夕方前ぐらいだ。
昼飯には明らかに遅い。
どちらかと言えば、早めのディナーと言った方が適切だろう。
ネネコには金を渡しているし、拠点としている宿屋の部屋にもいくらかの最低限の金は置いてある。
俺がいないからと言って、空腹で倒れるということはないはずだ。
「……はい?」
サキは大きく首を傾げた。
「だから、君が俺とディナーを共にしてくれ」
俺はもう一度言う。
まったく同じ言葉を繰り返したことで、ようやく意図が伝わったらしい。
「は、はいぃぃいっ!?!?」
(……そんな驚くほどのことだろうか?)
食事くらい、普通にすると思うのだが……?
俺は疑問に思いながらも尋ねる。
「もちろん、来てくれるよな? ここで帰るなんて言わないよな? 俺と君の仲じゃないか?」
俺は精一杯のイケメンスマイルを浮かべながら言った。
これで断られるはずがない。
俺は確信していた。
しかし、予想外の答えが返ってくる。
「い、いえ……。私はこの後もメイドとしての仕事がありますので……」
今の時刻は、夕方前ぐらいだ。
地球の感覚で言えば、そろそろ仕事終わりの時間である。
この領主邸のメイドの労働時間は、それなりにハードなようだ。
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