フィーナの母親に薬を飲んでもらってから、1週間ほどが経過した。
彼女の体調は良好だ。
もう問題ないだろう。
堀と塀の作成も、村の若い男たちとともに完成させた。
そこらの魔物程度であれば、堀と塀は突破できない。
村の安全性は格段に増したと言えるだろう。
そろそろ、この村を離れてもいい頃合いだ。
この村に滞在して、もう1か月ほどが経過する。
その間に、この世界の最低限の常識を学ぶことができた。
これ以上長居しても、最強を目指す上で得るものはない。
強さなど忘れて、フィーナとともにゆっくり暮らしていくのも魅力的ではあるが……。
やはり、最強への憧れが捨てきれない。
「リキヤさん……。とうとう、旅立たれてしまうのですね……」
フィーナが悲しそうな顔をしてそう言う。
俺が考えていることは、彼女に筒抜けだったようだ。
「ああ。俺はまだ武者修行の旅の途中なんだ」
正確に言えば、これから武者修行の旅が始まるところだが。
地球や日本という単語を出してみたことがあったが、彼女たちには通じなかった。
武者修行の旅の途中という設定で通していくのが無難だろう。
「私から見れば、リキヤさんは十分にお強いです。でも、それだけじゃ満足されないのですよね」
「そうだな。すまん。俺は最強を目指しているんだ。まだまだ俺の知らない強敵がいるかもしれん」
地球では、俺のライバルはもはやいなかった。
しかしこの世界では、何やら魔法だとか気術だとかいう不可思議な技術があるようだ。
俺を倒せるような強者がいる可能性がある。
「本音を言えば、行ってほしくありません。でもリキヤさんなら、Sランク冒険者になったり、武功を挙げて叙爵されたりするかもしれません。こんな辺鄙な村で収まる人じゃないですよね……」
フィーナが悲しそうな顔でそう言う。
「そんな顔をするな。俺の旅が落ち着いたら、きっと迎えにくるさ。それまで待っていてくれ」
最強を目指す旅も、いつかは終わりがくる。
ついちょっと前までは、加齢による衰えで引退も考えていたくらいだ。
この世界にきて何故か体の調子がすこぶるいいので、引退は取り消したわけだが。
最強を目指す旅が終われば、後は余生を楽しむことになる。
フィーナといっしょに子どもを育てるのもいい。
たっぷり金を稼いでおいて、大きな家に済み、うまい酒と料理を堪能していこう。
「きっと迎えにきてくださいね。あんまり待たせちゃうようだと、他の人の子どもを生んでいるかもしれませんよ?」
「フィーナが望んだことならそれでも構わない。そうでなければ、子どもごと引き取ってやる。俺は全てを受け入れよう」
旅の途中で、俺が死んでしまう可能性ももちろんある。
俺より強いやつにやられるのであれば、俺にとっては本望だ。
しかし、そんな俺の帰りをいつまでも待ち続けることになるフィーナは不憫だ。
彼女は彼女で、幸せな人生を送っておいてほしい。
「ふふ。冗談ですよ。私はずっと待ってますから。それに……もうできているかもしれませんし」
「む? それもそうか。……いつかと言わず、一年以内には一度顔を見せるようにしよう。子どもの顔も知らんまま放ったらかしにするのも悪い」
「ええ。よろしくお願いしますね。きっと元気な赤ちゃんを生みますから」
フィーナがそう言う。
赤ちゃんができているかはもちろんまだわからないが、できている可能性も十分にある。
これからたくさん稼いで、一年以内には一度帰ってこないとな。
「さて。旅立つとは言っても、まだ少し日にちはある。あの行商人一家や捕縛した盗賊、それに村長たちといっしょに街まで行く予定だからな。彼らと予定を合わせる必要がある。出発の日まで、毎晩可愛がってやるぞ」
「えへへ。望むところです。最後に、一度くらいはリキヤさんに勝ってみせます!」
フィーナがそう意気込む。
俺は夜の戦いでは別に最強を目指しているわけではないが、それなりに場数は踏んできている。
そうやすやすと負けるわけにはいかない。
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