俺は、フィーナの父ダインの畑仕事を手伝っている。
そこに、ビッグボアとかいう大きなイノシシが近づいてきたところだ。
やつは、柵越しにこちらをにらんでいる。
「ふん。わざわざ柵を壊させる必要もないな。俺が出向いてやろう」
俺は畑の周りを囲んでいる柵を飛び越える。
そして、畑から少し離れたところでビッグボアと対峙する。
フィーナとダインは、柵の内側からこちらを見守っている。
「先手は譲ってやろう。来い!」
「ブルアアアアッ!」
ビッグボアがそう吠える。
俺の言葉を理解したかのように、猛烈な勢いでこちらに突進してくる。
だがーー。
「やはり獣か。そんな馬鹿正直に突っ込んでも、避けられるだけだぞ」
俺はひらりと避ける。
そして反撃……と言いたいところだが、既にやつは走り去っている。
俺の攻撃範囲外だ。
「さて……。イノシシとは何度か戦ったことがある。こういうときは……」
俺は大きめの木の前に陣取る。
「さあ。来いよ」
再びビッグボアが突進してくる。
俺は先ほどと同じように避ける。
ひらり。
もちろん、ただ避けただけであれば先ほどと同じ展開が繰り返されるだけだ。
先ほどと異なる点が1つある。
それは、避ける前の俺の背後には大きな木があったことだ。
俺がビッグボアの突進を避けたことにより、もちろんやつは木に突っ込むことになる。
どしん!
ビッグボアが木にぶつかる。
「狙い通りだ。これでこいつの動きは止まる。……ん?」
メキッ。
メキメキッ。
木が割れてしまった。
「おいおい。マジかよ」
地球のイノシシよりもずいぶんと強いようだ。
やつはその勢いのまま少し離れたところまで走り去る。
そしてこちらを振り返る。
再び突進してきそうな雰囲気だ。
また先ほどと同じような展開が繰り返されようとしている。
これは、ちょっとやそっとの小細工では倒せんな。
「ああ……。リキヤさん」
フィーナが心配そうな声色でそう言う。
心配する必要などない。
むしろ、がぜんやる気が出てきたところだ。
「やるな。ただの害獣ではなく、俺が相手するにふさわしい強者だと認めてやろう。いざ勝負! はあああぁっ!」
「ブモオオオッ!」
俺とビッグボア。
両者、雄叫びをあげる。
ビッグボアが猛スピードでこちらにまで迫ってくる。
今度は俺も、やつに向けて駆けていく。
ドーン!
俺とビッグボアが、真正面から激突する。
俺の手、そして体に衝撃が伝わってくる。
「リキヤさん!」
「リキヤ君!」
フィーナとダインがそう叫ぶ。
「ははははは! やるな、お前!」
「ブモオオオッ!」
俺とビッグボアの力は拮抗している。
このまま力比べをしてもいいが、ここはーー。
「そいやぁっ!」
「ブモッ!?」
俺は重心をずらし、ビッグボアを背負投の要領で担ぎ上げる。
ビッグボアは、まさか自分の巨体が浮き上がるなどとは思いもしていなかったのだろう。
混乱した声を挙げ、なすがままだ。
「ぬうんっ!」
俺はそのままビッグボアを勢いよく地面に叩きつける。
ドガン!
大きな音を立てて、ビッグボアが地面にめり込んだ。
「ブ……ブモオオ……」
ビッグボアは力なくそう鳴き、息絶えた。
この衝撃で、脳や内臓に甚大なダメージを負ったのだろう。
「パワーだけなら、なかなか悪くなかったぞ。久々にいい鍛錬になった」
ただのイノシシが、ここまでのパワーを持つとはな。
地球のイノシシとの戦いは、ただの害獣駆除としての意識が強かったが。
これぐらいなら、いい鍛錬になる。
「す、すごい……」
「さすがだ。リキヤ君」
フィーナとダインがそう言う。
「さあ。いい肉が手に入ったな。今日は、イノシシ鍋といこうじゃないか。たくさん食べよう」
せっかくだし、村のみんなにもごちそうしてもいいかもしれない。
俺は大食らいだが、さすがにこの大きなイノシシを1人では食べきれない。
長期保存の手段なども限られているしな。
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