堀と塀の作成は、今日のところは終わった。
村の若い男たちと解散する。
俺はフィーナの待つ家に向かう。
「おおい。戻ってきたぞ」
俺は家の外からそう声を掛ける。
もう他人ではない間柄だし、黙って我が家のように入ってもいいのかもしれないが。
まあ一応な。
少し待つ。
ガチャッ。
ドアが開いた。
フィーナが出てくる。
「おかえりなさいませ。リキヤさん」
「ああ、ただいま。フィーナ」
俺は余所者だが、もうすっかりこの家が我が家のような気分になりつつある。
「堀と塀の作成は、うまく進みましたか?」
「そうだな。村の男たちもがんばってくれた。この調子なら、数日あれば形になるだろう」
「それはよかったです!」
フィーナがうれしそうにそう言う。
堀と塀が完成すれば、村の安全度は格段に高まる。
村人である彼女にとって、重要なことだ。
俺がいなくなっても、彼女の安全は確保しておきたい。
「フィーナのほうは、薬の調合はうまくいったか?」
「ばっちりです! 夕食後に、お母さんに飲んでもらおうと思っています。空腹時だと、効き目が強すぎるという話を聞いたことがありますので」
そのあたりは、現代日本と同じような感覚か?
結構ちゃんとした知識が広まっているようだ。
「それは何よりだ。うまく回復するといいな」
「はい! さあ、まずはご飯を食べましょう。もう用意は済ませてあります」
フィーナがそう言う。
彼女は、料理がなかなか上手だ。
おいしいご飯をいただくことにしよう。
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夕ご飯はいつも通り、すばらしい味だった。
そして、いよいよ彼女の母マリカが薬を飲むところだ。
俺とフィーナ、それにダインが固唾を呑んで見守る。
「ふふ。みんなして、そんなに注目しないでよ」
「しかしな。お前の病が治るかどうかの瀬戸際なんだぞ」
困ったような素振りを見せるマリカに対して、ダインがそう言う。
「フィーナががんばってつくってくれた薬だもの。きっと効くわ。でも、飲んですぐに効果がわかるようなものでもないでしょうに」
「それでも、気になるものは気になるのよ。さあ、飲んで飲んで」
フィーナがマリカをそう急かす。
「では……。飲むわね」
マリカがそう言って、薬を口に含む。
ゴクン。
水とともに、飲み込む。
「どう?」
「どうだ?」
フィーナとダインが、真剣な表情でそう問う。
「……あら? 心なしか、胸の苦しみが消えていくような……」
母親がそう言う。
飲んですぐに効き目が出るようなものでもないと思うが。
気を遣ってくれているのだろうか。
「ふふ。リキヤさんのおかげで、最上級の薬草をふんだんに使えたからね。即効性もあるんだわ」
フィーナがそう言って、胸を張る。
地球とは何やら物理法則や生体機構が異なるところもあるのかもしれない。
……ん?
よく考えたら、ここが仮に異世界だとして、フィーナは俺と同じ人類という認識でいいのだろうか?
外見や使用言語が酷似しているだけの別種の生命体である可能性が微粒子レベルで存在する……?
いや、さすがにそれは考えすぎか。
食べるものはいっしょだし、性交もできるし、善悪や理屈の判断も似たような基準である。
ルーツはわからないが、同じ人間だと考えていいだろう。
もしかすると、地球の人類の祖先がこの世界に転移して、繁殖して増えていったのかもしれない。
それか、その逆の可能性もある。
「ふう。なんだか、すっかりよくなったわ。今までの苦しみが嘘みたい」
「それはよかった。だが、ムリはするな。しばらくは安静にしていろ」
ダインがそう言う。
確かな効き目があったのはいいことだろうが、結論を出すにはまだ早い。
最低でも数日。
できれば、数週間は様子を見たいところだろう。
元気になった様子のマリカを見て幸せな気持ちになりつつ、俺たちはそれぞれ寝室へ向かった。
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