トモ・エの操舵により、宇宙船はレランパゴギリギリまで近づいた。これ以上は宇宙船では近づけない。
ソラと舞子はすでに格納庫内で自分のエスパーダに乗り込んでいる。
『これよりエスパーダNo1、発進シークエンスに入ります。5、4、3、2、1、0』
トモ・エのカウントダウンが終わると、ソラは足元のペダルを踏み込んだ。
それなりのスピードだが、もうGにも慣れた。
ソラを追うように、舞子の機体も発進する。
1ヶ月前の極端なカスタマイズは一度初期化されている。が、その後も2人は少しずつ自分の好みに機体をイジっていた。
ソラはソードを強化し、しかも2本装備している。あの決勝戦のようにソードが1本駄目になっても予備があると良いなと思ったからだ。
一方の舞子の機体は、肩にミサイルを装備している。やはり遠距離戦思考なのだ。
さらにいつもは銃を装備している。今回は銃の代わりにレランパゴ回収用のボックスを持っているが。
『では2人とも、お気を付けて』
「よし、行こう、舞子」
『ええ』
ソラと舞子はレランパゴに向かって突き進む。
(あと少ししたら、エネルギーコーティングを使わないと)
目の前にあるのは機体が溶けるほどのエネルギー体だ。
(時間をオーバーしたら、僕も舞子も死ぬ)
そう思うと、ソラは少し恐怖を覚えた。
『ソラ、大丈夫? オシッコちびってない?』
舞子の声が聞こえる。
「だ、大丈夫だよ、これくらい」
それは自分に言い聞かせるような言葉だった。
舞子もソラの不安を感じ取ったのだろう。さらに言ってくる。
『大丈夫よ。決勝戦の時みたいにデブリがたくさんあるような場所じゃないんだから』
舞子の明るい声に、少しだけ励まされる。
(あの決勝戦のステージに比べれば、岩石が飛んでいるわけでもないんだ)
自分にそう言い聞かせ、先に進んだ。
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トモ・エは安堵していた。
(どうやら、問題なさそうですね、2人とも)
もし、彼女に人間のように息をする機能があったなら、ほっと溜息をついていただろう。
実際の場面になってあの子ども達がちゃんとやれるかどうか不安だったのだが、今のところ問題は起きていない。
2体の機体は順調に進み、どんどんレランパゴに近づいている。
「2人とも、そろそろエネルギーコーティングをお願いします」
『了解』
2人はそう答えると、自分たちの機体にエネルギーコーティングを施した。
それから2分後、2体の機体はレランパゴの目の前に達する。
『これを破壊すればいいんだよね』
通信越しのソラの言葉に、トモ・エは返答する
「はい、細かく砕いてしまってください。1mm以下の大きさになれば、レランパゴのエネルギーは消えてなくり、ただの石ころになりますから」
トモ・エの言葉に、ソラがソードを構えた。
――その時だった。
トモ・エは宇宙船のレーダに高速飛行体が映っていることに気がついた。
「2人ともも気をつけてください。そちらに高速接近中の物体――いえ、機体があります」
『え!?』
ソラ達が戸惑っている間に、謎の機体は2人の機体に急速接近するのだった。
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レランパゴにギリギリまで接近すると、まるで炎にあぶられているかのようにコックピット内の気温が上がっていく。
ソラの額から汗が吹き出る。
(エネルギーコーティングをしていても、こんなに熱いなんて)
近づいて直視すると眩しい。
ともあれ、まずは割ってやろうとソラがソードを抜いた時だった。
『気をつけてください。そちらに高速接近中の物体――いえ、機体があります』
トモ・エの警告がコックピット内に響く。
「え!?」
一瞬理解できず、硬直。
それが致命的だった。
『ソラ、上よ!』
舞子の言葉に上を見ると、全身真っ黒のロボットが迫っていた。
エスパーダと似ているが、細部は異なる。
「なっ……」
一瞬どうしたらいいのかわからなくなる。
この見たことがないロボットは敵なのか味方なのか。
自分たち以外の機体と遭遇するなど想定外もいいところだ。
混乱するソラ。
そんなソラをあざ笑うかのように、黒いロボットがソラの機体に銃口を向けた。
「ちょっ、マジ!?」
いきなり銃を向けられるとか、冗談ではない。
慌てて『時間制止』を使う。
(とにかく避けなきゃ)
『時間制止』を使っているからといって、エスパーダの速度が上がるわけではない。それでも、正確な判断をするには十分だった。
コントローラーを操作し、機体を右に動かす。
――次の瞬間。
黒いロボットの銃口からはピンク色の玉が発射された。
ピンク色の玉はソラの機体の横を飛んでいった。
そこで『時間制止』を解除する。
『ほう、避けたか』
回線に割り込んで聞こえてきた声は、知らない男のものであった。
「なんだよ、お前は!?」
相手に聞こえるかどうかは分からないが、ソラは叫んでいた。
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