第一回バトル・エスパーダ全国大会の表彰式の後、ソラと舞子は会場裏手に案内された。
2人を案内するのは金髪ショートヘアーのお姉さん――傘木原智恵である。
彼女はバトル・エスパーダを発売した会社のキャンペンガールとして色々なメディアに露出していた。
ソラは何かイベントの続きでもあるのかなと思っていたのだが……
すでに3人は会場の敷地外に出ている。
薄汚れたビルの地下へと連れてこられるにいたり、さすがにソラも何かおかしいと思い始めた。
舞子も不安に感じたのだろう。智恵に尋ねる。
「あ、あの、どこまで行くんですか?」
それに対し、智恵は答えた。
「宇宙です」
『は?』
ソラと舞子の声がかぶさる。
(だって、宇宙どころか地下に潜っているじゃないか)
いや、問題はそんなことではない。宇宙に行くって言われても意味がわからない。
それでもソラが素直に従ったのは、なんだかんだでイベントの続きなんだろうなという思いがあったからだ。
地下一階の部屋に3人で入る。
そこには見たこともない機械があった。アンテナっぽいものが3つあり、部屋の中心にむかっている。さらに、巨大なコンピュータらしきものもある。一言で表すなら、30年前のSFドラマに出てきそうな機械がいっぱいといったところだろうか。
智恵は2人に向き直り語り始めた。
「2人とも、優勝、準優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「2人にお願いがあります。私と一緒に宇宙を旅してください。あなた達の力が必要です」
真顔でそう言われ、ソラと舞子は顔を見合わせた。
「……これ、イベントの続きか何かですか? そろそろ家に帰らないと、僕色々とマズイんですけど……」
ソラはおずおずとそう言った。実際、今から帰っても門限は過ぎてしまいそうだ。そうなったら、あの叔母に何をされるかわからない。
「いいえ、これはもうゲームの話ではありません。あなた達2人に本当に宇宙についてきてほしいのです」
真顔で言われれば言われるほど、ソラは冷めてきた。
確かに自分は空想家で、授業中もぼーっと空を眺めながら、ファンタジー世界やSF世界を旅する妄想をしている事が多い。
だが、こんな話をいきなり信じるほどお子様でもないつもりだ。
舞子も同感だったのだろう。呆れたような声を上げた。
「あのね、イベントの続きだとしてもちょっとズレていないかしら?」
「そうですね。確かに、いきなり信じろと言われても無理ですよね」
智恵は少し考える素振りをした後、何かを思いついたようにポンと手を叩いた。
「ではこれならどうでしょうか?」
そういうと、智恵は自らの首筋に両手をあて……そして、頭を持ち上げた。
文字通り智恵の首から上が外れたのだ。
「うそ……」
舞子がつぶやく。
首が外れても、血は流れない。今まではまっていた場所からは銀色の金属が見える。
「私は惑星イスラで作られたアンドロイド、イスラ=ニコル=トモ・エです」
「手品……じゃないよね……?」
ソラはおそるおそる言った。
「いいえ違います」
自らの首を両手に持ったまま答える智恵――もとい、トモ・エ。
人型のロボットならテレビで見たことはある。でも、こんなに滑らかに動くロボット、今の科学で作れるのだろうか?
ソラはそう自問し、多分無理だろうなと想像する。
「あなたは、本当に宇宙人なの?」
「いいえ、私は人ではなくアンドロイドです。それに地球人も宇宙人の一種ですのであまり意味のある質問とは思えません」
舞子の質問にトモ・エが答える。
「じゃあ、あんたのいう宇宙についてきてっていうのも正確な言葉じゃないじゃない。地球だって宇宙の一部でしょう?」
「……その通りですが、あなた方の年齢で学習するレベルの日本語には、他に適切な表現がありませんので」
2人の会話を聞きながら、ソラは必死に頭の中を整理していた。
(つまり、このトモ・エは宇宙から来たアンドロイドで、僕達に一緒に宇宙に来てほしいと言っている?)
だが、どこまで信じればいいのか。
やっぱりこれはゲームメーカーさんがしかけたドッキリイベントか何かじゃないかという気もする。
だとしたらまともに信じたら大間抜けだ。
「私の話、信じてもらえましたか?」
ソラと舞子は顔を見合わせた。どう考えても素直にはうなずき難い話だ。
「……では、もっときちんとした証拠を見せましょう」
「きちんとした証拠?」
いぶかしがる舞子に頷くと、トモ・エは頭を元に戻してから壁の機械をイジり始めた。
「はい、実際にこれから2人を宇宙にお連れします」
すると、3つのアンテナが光り始める。
「な、なに?」
「ご安心ください、ただのワープ装置です」
「ただのって……」
言いかけたとき、アンテナから目がくらむような光が溢れる。
思わず目を閉じるソラ。
次の瞬間。
なんだか体全体が『ぐにょにょにょにょ~ん』となった。
マヌケな表現だが、他に表現しようがない。
あえて言うなら、全身が引っ張られて、分解され、混ぜられた挙句、再び元に戻った――ような感じ――だろうか。痛みはなかったが気持ちが悪い。
(なんだよ、これ、何が起きているんだよ!?)
わけがわからない。
だけど、目を開けようとすると眩しくてたまらない。
どのくらい経っただろうか。
トモ・エがソラ達2人に言う。
「はい、もう目を開けても大丈夫ですよ」
その言葉に、ソラが目を開いた時、あたりの風景は一変していたのだった。
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