僕らはロボットで宇宙(そら)を駆ける

ロボット×宇宙×ジュブナイル!  広大な宇宙で、僕らは何を見る!?
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第三章 エスパーダ、発進!

9.初めての宇宙船生活

公開日時: 2020年12月11日(金) 07:28
文字数:3,008

 地球圏を旅立って数時間後。


「うんじゃ、お休み」

「うん、お休みなさい」


 ソラと舞子はそういって、それぞれの個室に入った。

 ちなみに、トモ・エは操舵室だ。彼女は別に宇宙船内のどこにいても操舵できるらしいが、いつまでも2人にずっと付き添う意味もないということだろう。


 部屋に入るとなんとなく、あたりを見回した。

 ベッドと机、それにテレビがあるだけの簡素な部屋だ。

 だけど。


(自分の部屋か……)


 そんなものを持ったのは初めてだった。

 伯母の家ではもちろん、両親が生きている頃も小さなアパートに住んでいたから。


(どうしようかなぁ)


 タブレットに表示された時刻を見ると、日本時間で22時だった。起床時間を守るつもりなら、もう寝た方がいいかもしれない。実際、さっきシャワーを浴びてパジャマに着替えている。


 舞子はイスラ星人の服のまま寝るつもりらしいが、ソラはあんな窮屈そうな服で寝たくない。トモ・エに頼み物質構築装置で日本のパジャマを作ってもらった。


(テレビやタブレットを使ってみるのは明日でいいかな)


 ソラは素直に眠ることにした。

 ベッドに近づき、表面を指でツンツンつっついてみる。

 やっぱり、日本の布団とはだいぶ違う。

 この、まるでゼリーかスライムみたいな物に横たわって眠れるのだろうか。


(布団、作ってもらおうかな)


 一瞬そんなことも考えるが、ものは試しだ。実際に横になってみた。


 ――すると、ベッドの中に体がゆっくりと沈み込んだ。


「わ、わ、わわ?」


 一瞬、溺れるかと思ったが、頭のあたりは沈み込まない。

 やがて、体がすっぽり覆われると、そこで止まった。なんだか、ぬくぬくして温かい。

 地球の寝具と違うので違和感はあるが、気持ちは良かった。


 右手を動かし、ベットから出してみる。

 スライム状のべたつきが纏わり付くことを覚悟していたが、まったくそんなことはない。


(これ、いいかも)


 布団で寝るよりもラクチンだ。

 慣れればきっと快適なのだろう。


(えっと、電灯のスイッチはこれだよね)


 手を伸ばしスイッチを押すと室内の電灯が消え、暗闇が訪れる。

 色々あって興奮していたが、やはり疲れてもいたのだろう。

 ソラの意識はほどなく闇に消えた。


 ---------------


 翌朝――いや、宇宙には朝はないが、ともあれ、日本時間で朝6時50分。

 部屋の中に大音量の音楽が流れた。確か、日本の有名アニメソングだ。


 ソラは飛び起きる。

 ベッドから床に降りると、トモ・エの声が聞こえた。


『ソラさん、舞子さん、朝ですよ、起きてくださーい。起きたら着替えて食堂に集合してくださいね』


 どうやら室内にスピーカーがあるらしい。


(着替えろったってなぁ……)


 着替えなんて持っていないのだが……

 と思ったら、床にちょこんと着替えが置かれていた。


(これを着ろってことか)


 それは昨日舞子が着ていたのと同じ、イスラ星人の服だった。舞子の服は赤だったが、ソラのは青だ。


(どうやって着ればいいんだろう?)


 ソラはそう思いながら服を持ち上げた。

 材質は布とゴムの中間みたいな感じだ。

 上半身と下半身が一体となっていて、ファスナーもないのでどうやったら着れるのかわからない。


『その服は強引に引っ張っても千切れませんから、首の穴から足を突っ込んでください』


 ソラが迷っていると、タイミング良くトモ・エのそんな声が聞こえた。


(ひょっとして、部屋の中を監視しているのかな?)


 考えてみるまでもなくありそうなことだった。この船全体を操るトモ・エなら、簡単なことだろう。


 ともあれ、言われたように、パジャマを脱ぎ、足を服に突っ込んでみる

 確かに服はいくらでも伸び、着るのはそれほど難しくなかった。

 舞子が着ているのを見た時は動きにくそうと思ったものだが、こうして自分で着てみるとは全く支障がない。


 ソラが部屋から出ると、そこには舞子がいた。


「おはよう」

「うん、おはよう」

「あら、あんたタブレットは?」


 舞子に言われ、机の上に置きっぱなしだったことに気づく。


「やべ、取ってくる」


 ソラはあわててタブレットを取りに戻った。


 ---------------


 食堂に行くと、トモ・エがにこやかに話しかけてきた。


「2人とも、おはようございます。まずは、朝食にしましょう」


 そう言われ、ソラと舞子はそれぞれ何を食べるか選ぶ。

 基本的になんでも作れるとはいえ、朝からそんなに豪華なものを食べたいとも思わない。ソラはトーストとハムエッグ、舞子は白米と納豆とサラダを注文した。

 食事はあっというまにできあがり、トモ・エが運んできた。


『いただきます』


 2人は言ってそれぞれの食事を口に運んだ。

 うん、トーストの焼加減もちょうど良いし、ハムも厚切りで美味しい。卵はもう少し半熟の方が好みだけど、これはこれでなかなかだ。


 ある程度お腹がいっぱいになったところで、ソラは気になっていたことを尋ねた。


「ねえ、トモ・エ、ひょっとして僕らの部屋の中を監視している?」


 ソラの問いにトモ・エよりも先に舞子が反応する。


「え、嘘!? そんなことしていたの?」


 どうやら彼女はその可能性すら考えていなかったらしい。


「監視というと言葉が悪いですが、2人の健康管理のためにもモニタリングはしていますよ」

「それ、やめてくれないかな」


 ソラの言葉に、トモ・エは少し驚いた顔をした。


「もちろん、2人のプライベートを第三者に明かすことはありません。室内でのプライバシーは護られていますよ」

「でも、トモ・エにはプライバシーがないってことじゃん」

「私はアンドロイドです。私にプライバシーが漏れたからといって問題になるとは思えませんが」


 それはそうなのかもしれないが、それで納得するにはトモ・エはあまりにも人間的すぎる。


「でも、嫌なんだ」

「それは私も同意見」


 ソラの意見に舞子も頷く。


「わかりました。それでは2人の個室内のモニタリングは中止します」


 トモ・エはあっさりと言った。

 あまりにあっさりと言われたので、本当にやめるのか不安になったくらいだ。

 そんなソラの考えが顔に出たのだろう、トモ・エはさらに言った。


「ご心配なさらなくても、イスラ製アンドロイドに嘘をつく機能はありません」


 それこそ、嘘じゃないのか――そう言いかけやめる。そこまで疑い始めたらきりがない。


 ---------------


 食事が終わった後は早速勉強が始まった。タブレットに情報を映しながら、トモ・エが解説していく。


 勉強の内容は主に算数や理科だ。特に宇宙に関する事柄にしぼって説明がなされているように感じる。

 トモ・エの説明は学校の授業よりもわかりやすく、内容も興味深かった。


(やっぱり、このトモ・エは教育用アンドロイドなんじゃないかなぁ。もちろん、それだけの用途ではないのだろうけど)


 ソラにとって勉強は結構楽しかったのだが、舞子は別意見らしい。

 途中休憩をはさみつつ5時間の勉強が終わった時には舞子はぐったりとしていた。


 ---------------


 昼食をとったあと、今度は運動の時間である。

 強重力、低酸素下でランニングや筋トレなどを行う。こちらはソラよりも舞子の方が得意だった。

 足も舞子の方が速いし、腕立て伏せの回数でも負けた。

 トモ・エはあくまでも健康管理だから勝ち負けは関係ないと言ってくれたけど、いくら年上とはいえ女の子に運動で負けるのはちょっと悔しい。


 1時間も体を動かしたら、ふたりともクタクタになっていた。

 そして、休憩とおやつの後、いよいよ実際にエスパーダに乗ることになったのだった。


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