ソラは目前に迫ったヒガンテの一体を斬り倒した。
(これで、何体目だろう?)
途中から数えるのはやめていた。
そもそも、正確に何体残っているかもわからないのだ。
ひたすら斬り、ひたすら倒す。
それだけを考える。
舞子からの援護射撃にも助けられつつ、ソラは次々にヒガンテを倒していく。
(なんで、僕、怖くないんだろう?)
ふと、冷静になってそんなことを考えたりする。
一瞬でも気を抜けば、宇宙の藻屑となって死ぬかもしれないのに、なぜかソラは恐怖を感じていなかった。
それどころか、少し楽しいという気持ちすら持っていた。
(やっぱり、僕も、男の子ってことなのかな?)
そんな言い方をしたら、舞子にぶん殴られるだろうけど。
でもやっぱり、ロボットを動かして地球を狙う化け物と戦うというのは、ある意味男の子の夢だろう。
もちろん、これはバトル・エスパーダのゲームじゃない。
ちょっと間違えれば自分も舞子もケン・トも死ぬし、それはつまり地球が滅びることを意味している。
それでも。
今、ソラはとても高揚していた。
あるいはそれは――
(怖すぎて、頭がおかしくなっちゃったのかな?)
――戦闘における戦士の興奮というものだったのかもしれない。
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ケン・トは目前に迫った3体のヒガンテにソードを向けた。
(3対1か。なかなかにハードだな)
思いつつ、あらためて周囲を確認する。
舞子はひたすらソラへ援護射撃をしている。
トモ・エやクーギャの操る宇宙船は、ここから少し離れた場所で待機中。
そしてソラは、今も数十体のヒガンテを相手に大立ち回り中だ。
(ま、俺もヒガンテの2、3体くらい倒してみせなきゃカッコつかないだろ)
正直なところ、ケン・トにとってこの戦いは命を賭けるほどのものではないはずだった。
もちろん、彼は別に非道の人間ではないから、殺されそうな子どもがいれば助けるし、無辜の民が虐殺されようとしていれば心を痛めはする。
だが、そのために自分の命をはったりはしない。
そういう人間だったはずだ。
別にそれを恥とは思わない。
ソラや舞子の故郷の日本に住む者達だって、遠く離れた異国の子どもが戦乱で犠牲になるニュースを見た時、心を痛めることはあっても『今すぐ俺が助けに行く』と動く者は少数だろう。
ケン・トにとって、地球に住む者も、ソラや舞子も、『異星の民』でしかない。
多少のリスクですむなら助けもするが、ここまでヤバイ状況で命を張る意味など無いはず。
そのはずだ。
(それなのに、なんで俺はこんなことをしているのかね)
ヒガンテの1体が伸ばしてきた腕を切り裂きながら、そんなことを考えてしまうケン・ト。
自分で自分の行動の意味が分からなかった。
「ったくよぉ!!」
思わず叫びながら、それでも1体目のヒガンテを倒す。
「こんな、大損の戦いに巻き込みやがって!!」
叫びながら、2体目のヒガンテに向かう。
ケン・トはソラの『時間制止』や舞子の『空間認識』のような特殊能力は持ち合わせていない。
ついでにいえば、歴戦の戦士というわけでもない。
あくまでも、彼は商人だ。
命がけの戦いなんて柄じゃない。
それなのに。
だというのに。
ケン・トは剣を振るう。
心のどこかで、今すぐ逃げ出すべきだと考えながら。
それでも。
(結局は大人の男の意地なのかね)
あんな子ども達が母星のために命を張っているのだ。
大人として、一人逃げ出すのは恥ずかしいじゃないか。
ケン・トが戦う意味は、結局それだったのかもしれない。
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舞子はひたすらソラへの援護射撃をしながら祈っていた。
(ソラ、頑張って)
ソラのエスパーダは今のところヒガンテを次々に倒している。
何度か危うい場面もあったが、このままなら勝てそうと思えるくらいには善戦していた。
戦いの前、ソラは言った。
『それでも倒しきれなかったら、ヤツらの群れのど真ん中で、僕が自爆する』
それは確かに作戦通りだ。
作戦通りだが。
(そんなこと……)
ソラにそんなことはさせたくない。
だから、舞子はひたすら祈りをこめてミサイルを撃ち続ける。
ソラが自爆などしなくてすむように。
ソラが死なないように。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その存在に、最初に気づいたのは、ソラでも舞子でもケン・トでも、トモ・エでもなかった。
彼ら、彼女らはあまりにも目前の戦いに集中しすぎていた。
だから、その存在に気がついて警告の声を上げたのは、戦いをもう少しだけ冷静に見守っていた鳥形アンドロイドだった。
「ケン・ト! 気をつけるギャー、どでかいのがやってくるギャー」
クーギャは確かに観測していた。
これまでの30倍は大きなヒガンテが1体、この場所に高速接近していることを。
クーギャの声に、トモ・エも気づいたようだ。
『そんな、これは……ソラさん、舞子さん、高速接近中のヒガンテを観測。大きさは……これまでの32.6倍!』
トモ・エの声にもかなりの焦りが見て取れた。
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