タブレットを弄り、エスパーダの改造を続けるソラと舞子。
その後ろから、トモ・エが言う。
「やはり、私は賛同できません」
あの日……宇宙怪獣ヒガンテと接触し、ヤツらの目的地が地球だと推定されてから3日が経っていた。
舞子がトモ・エに反論する。
「でも、計算上この方法が1番地球を救える可能性が高いんでしょう?」
「確かにその通りです。ですが、それでも不条理です」
2人の会話を聞きながら、ソラは思い出す。
3日前、トモ・エを犠牲にしたくないと言い出したソラ達に、ケン・トが語ったこと。
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『一応、他の方法ならあるんじゃねーの? というよりも、むしろ地球を救える可能性が一番高い方法は別にあるだろ』
どういうことかと問いかけるソラに、ケン・トは言う。
『簡単なことさ。レランパゴでパワーアップできるのは、何も宇宙船だけじゃない。エスパーダのエネルギー源もレランパゴなんだ。武器を積んでいない宇宙船で突っ込むよりも、レランパゴでパワーアップさせたエスパーダで戦う方がよっぽど撃退できる可能性があるだろ』
その言葉に、トモ・エが慌てる。
『ケン・ト、それは……』
ケン・トはトモ・エを無視して淡々と続ける。
『最終的に勝てずにヤツらの群れの中央で自爆するとしても、装備のない船より小回りが利く上に武器を持っているエスパーダの方が有利だ。
クーギャに試算させたら、船で自爆するよりも勝算は10倍以上あるぜ。もちろん概算だけどな』
エスパーダでヤツらを倒す。もしそれが不可能でも、自爆させる。
もちろん、エスパーダはトモ・エには動かせない。
ソラや舞子が戦うということだ。
そして、勝てなかったら自爆してでも地球を救う。
『無茶です。あなたは2人を殺すつもりですか?』
『お前だけでヤツらの中央に突き進んで自爆する方が無茶だぜ。成功確率なんてほとんどねーよ』
『ヤツらがアンドロイドを襲わないと言い出したのはあなたでしょう?』
『それはまあ、そうだが、あくまでも推論だ。普通に撃墜されて終わりになる可能性の方が高いね。
それに、そもそも、アンドロイドは武器を扱えない。特にイスラ星人の作った人工知能はその判定範囲が広い。自爆だって一種の攻撃だ。お前の意思で自爆しようとしたら、その前にお前の機能がとまるんじゃねえの?』
トモ・エはそれ以上何も言えない。
「あの、ちょっといいかな?」
ソラは気になったことを聞く。
「その、勝算ってヤツなんだけど、僕らが戦えば10倍っていうけど、トモ・エが成功する可能性はどれくらいなの?」
10倍の成功確率があるといわれても、ソラ達がヤツらの群れを倒せる可能性なんて10%も無いような気がする。だとしたら、その1/10以下というトモ・エの作戦の成功確率はどのくらいなのか。
『クーギャに試算させたら1%未満ってとこだな。不確定要素が多すぎるけどな』
「それじゃあ、僕達がエスパーダで戦ったら?」
『それでも5%未満かね。こちらも、不確定要素が多すぎるが。なによりも、お前達が最高のパフォーマンスをしてようやく5%ってところだ。さっきみたいに怯えて動けなかったり、パニクってあっさり掴まったりするようなら可能性は0だな』
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そして、ソラと舞子は戦う決心をした。
トモ・エを見捨てたくないというだけではない。
1%未満の可能性に自分たちの母星の運命を賭けるわけにはいかなかった。
あのままトモ・エを行かせて、トモ・エも地球も失ったら、後悔するどころの話じゃない。
ソラと舞子はできる限りの改造をエスパーダに施す。
レランパゴと物質複製装置を使って、ミサイルを無限に発射できるように。
スピードはこれまでの何十倍にも。
そして、ソードも瞬時に復元できるように。
エスパーダの改造はなかなかに難しいが、これまでにトモ・エに習ったことをフル活用して、改造を続ける。
トモ・エは、そんな2人にさらに言う。
「2人とも、今からでもケン・トの宇宙船に行ってください。2人が死ねば、私は悲しい」
その言葉に、ソラはある種の確信を持つ。
「そうだよね、悲しいよね」
「ええ」
「悲しいと思えるなら、それはトモ・エがただのアンドロイドじゃないってこと。人間に近い存在だよ」
「それは違います。あくまでも私はアンドロイドです。人間ではありません」
ソラは首を横に振る。
「ケン・トさん言っていたよ。イスラ製以外のアンドロイドならAIのバックアップは取れるって。でも、イスラ製のアンドロイドは記憶と記録をバックアップしても、人格が元に戻らないって。それって、記憶と感情は別物で、トモ・エには感情があるってことでしょう?
僕は、感情と人格があるなら、それは人間だと思う」
「ですが……仮に私が人間に近い存在だったとしても、1人の犠牲で星を救えるならば救うべきです」
ソラは頷いて言う。
「そうだね。だから、僕や舞子が危ない目に遭ったとしても、確率の高い方を選ぶべきだ」
「クーギャの試算のことなら、いい加減な話です。不確定要素が多いですし、あの鳥型アンドロイドのAIとは別の試算を示すことが私にはできます」
「試算とかしなくても僕にもわかるよ。武器なしでヤツらに突っ込むのが無茶だってことくらい」
「たった3体のエスパーダでヤツらの群れを相手するのも同じくらい無茶です」
確かにその通りだろう。
ソラと舞子、それにケン・トも手伝ってくれるとしても、やはり無茶だ。
だけど。
「地球は僕らの星なんだ。だったら、僕らが護らなくちゃ」
そう、結局はそうなのだ。
そりゃあ、一度は自分を虐めた伯母や従兄弟やクラスメートを護る必要があるのかと考えたりもした。
だが、あの星にいるのはそれだけじゃない。
いつもソラを遊ばせてくれたゲームセンターの店長も、ソラのプレーを褒め称えてくれた他のプレイヤー達も、ソラを心配してくれた学校の先生も、小学校時代の友達も、舞子の両親もあの星にいるのだ。
あの星を、イスラ星のように滅ぼすわけにはいかない。
だから、ソラは戦う。
ソラのエスパーダは計算上の出力がこれまでの100倍近くまでカスタマイズされている。
もちろん、今まで通りに動かしたらすぐにエネルギー切れを起こしてしまう。
そこで、背中にレランパゴを格納できる装置――ソラと舞子は『ランドセル』とよんでいる――を取り付け、そこに最大限レランパゴを物質複製装置とともに積み込む。
これで、エスパーダはこれまでの何倍もの速度とパワーを出せるし、ミサイルやソードを事実上無限に生み出せる――はずだ。あくまでも理論上は。
成功確率を考えるならば、ソラ達の作戦の方が上。
そうである以上、理屈ではソラ達を説得できないと考えたのだろう。トモ・エは別の言い方で説得してきた。
「そうですか、ではケン・トは? ご自分達の星のために彼を巻き込んでもいいと?」
今回の作戦では、ケン・トも一緒に戦うことになっている。
2体よりも3体のエスパーダを使った方が勝算はずっと上がるからだ。
もちろん、ケン・トも自分の宇宙船でソラ達と同じようにエスパーダを改造しているはずだ。
「それは……確かにそう思うけど。地球を救うためだからね。ケン・トさんを巻き込んだことで、戦いの後、僕が地獄に行くっていうなら、それはしょうがないよ」
舞子もトモ・エに言う。
「ソラが地獄に行くなら、私も付き合うわ。でも、私たちは死ぬつもりはない」
トモ・エはしばらく目を閉じ黙想し、やがて言った。
「……2人の決意は固いのですね」
『うん』
2人は頷いて、タブレットの操作に集中したのだった。
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