2RE:play〜ふたりプレイ〜

世界で最後のゲーム実況者
ハラアイ
ハラアイ

【自作ゲーム】話題のやばいゲームを自演実況プレイ5【最終配信】

公開日時: 2021年4月18日(日) 17:34
文字数:5,039

コトリ:あーー……こんにちは、こんにちは。音量大丈夫でしょうか? っていうか、コメントサービスプログラム解除してるから、だれもいないか……。まあ、気分盛り上げるために言うか。はい、生きとし生ける者達よ、こんにちは。コトリですー。


家守:こんにちは


コトリ:あ! 家守さん、本当に来てくれたんですね。


家守:あなたが暇潰しの動画を上げてくれたおかげで、あなたの存在を忘れずに待ってることができました。


コトリ:あ、あれ見てくれたんだ! ……ていうか生放送でコメントくれるの初めてだよね? めちゃくちゃ嬉しいんだけど。


家守:そうですか。私はひとつ不思議なんですが、


コトリ:ん?


家守:あなたはどうして最後の動画を「ミラーマン」というゲームにしたんですか?


コトリ:え? あんまし深い理由はないけど……。speakが言っていたんだ。homeのコメントサービスのシステムは、人間のミラーニューロンをベースに作られているって。家守さん、知ってた?


家守:ええ。たしかにその通りです。


コトリ:あ、やっぱそうなんだ


家守:ただ通常のミラーニューロンと違って、homeのコメントサービスは「テキスト」に特化しているんです。


コトリ:テキスト?


家守:このシステムは、過去に生身の人間がインターネット上に放出した言葉……たとえば今私が打ち込んでいるような些細なコメントから、長文のブログ、果ては音声データの自動字幕からもテキストを起こして読み込みます。そしてヒトがどのような時に、どのようなテキストを生成するのか、そのアルゴリズムを構築すると同時に、そのテキストから想定されるヒトの「感情」をミラーリングするのです。ただコメントを打ち込むロボットではなく、理論上は「共感する機能」を兼ね備えた存在です。


コトリ:ただテキストを読み込んだだけで、感情のミラーリングを……そんなとこできるの?


家守:これは不思議なことではないんです。人間の「心」もこれと同じようにできたと主張する学者だっているんですから。


コトリ:ええ? 心は、生まれ持ったものなんじゃ……


家守:ヒトは集団社会によって生き延びた動物です。他者と仲良くすることが延命に繋がる。だから相手の姿をよく見て、頭の中でシュミレーションして、相手の真意、つまり「心」をミラーリングしようとする。そうして生まれたのがヒトの「心」。だから心なんて、そんなもの誰も持ってないのに、生きてる人間全員が相手に「心」があると勘違いして、その虚構をミラーリングしてるってわけです。


コトリ:君、ずいぶんと悲しいこと言うね


家守:あなただって経験あるでしょう。ロボットであるはずのNPCを見殺しにできなかったのは、そのキャラクターの行動に心をミラーリングしてしまったからに他ならない。


コトリ:うーん、反論の余地なし。でもにわかに信じ難い。


家守:もちろん理論上の話です。だれも自分以外に、自分の意識があるということを証明することなんてできないんですから。彼らプログラムに心があるとか、意識があるだなんて誰にも分からない。それでもhome計画の研究者たちは、そこに意識があると信じてミラーリングを繰り返した。このプログラムには、人のミラーニューロンと同じく学習能力があるので、繰り返しリプレイすることで感情再現の精度が増すんです。


コトリ:学習能力?


家守:例えば、人間がピーナッツを手でつまむのを見ると、猿のミラーニューロンは自身の手でピーナッツをつまむ動きを脳内で再現するでしょう。



コトリ:うん。


家守:しかしペンチを使ってピーナッツを掴む場合、サルのミラーニューロンは反応しません。


コトリ:猿はペンチでピーナッツを食べないもんね。


家守:はい。しかし、同じような実験を続けていると、ペンチでもミラーニューロンが反応するようになる。つまり繰り返すことで学習するわけです。homeはその機能を応用……つまり、同じ人物が生成したテキストを繰り返し再生させることで、限りなくその個人に近いバーチャル人格を形成できるんです。


コトリ:その個人に近いバーチャル人格


家守:そうです。


コトリ:じゃあ、俺の動画にコメントしてくれてた皆も「こうなる前」はそれぞれ生身の人間として存在した個人だったわけね。いまはプログラムでも、そこで確かに俺に共感してくれた存在……


家守:そうです。


コトリ:もうさ、技術が発展するたびに信じれるものって減ってくよね。


家守:そもそも信じれるものなんて、この世にあまりに少ない。


コトリ:それは言えてる。


家守:無駄話がすぎましたね。それで? あなたは無事、家の外に出て生きて戻ってこれたってことみたいですけど、結果を実況してくれるんでしたよね?


コトリ:ああ、そうそう。「YOU」に最終シナリオを追加してたから遅くなったんだよね。ここにアクセスするのもこれで最後だからね、やっぱり、実況風に報告しようかと思って…なにより暇だし。


家守:あなたの言葉を借りるなら、生きるための無駄ですね。


コトリ:そういうことです。まあいつもだったら初見実況が俺のスタイルだったんだけど、今回は自演実況? いや解説実況のが近いかな。俺の作ったゲームだし……。


家守:自演といえば、あのメッセージも自演だったんですか?


コトリ:え?


家守:「あなたをおもいだせ」


コトリ:あ、あれ! あれ、何だったんだろう。俺じゃ無いよ。てっきりhome側のなんかかと思ったんだけど……家守さんじゃなかったのか。


家守:ではあなたは、まだ何かを思い出せてないってことですね


コトリ:思い出すも何も、忘れていることなんてないし。多分アレかな、RPG制作ソフトのサンプルが残ってて、俺が消し忘れたのかも。俺もゲームなんて作るの初めてだったからさ、初心者用のテンプレート使って作ったんだよね。あ、これ裏話だから、皆には内緒で……って、もう、皆いないか。


家守:ええ、もう皆、いません


コトリ:………そうだね。……じゃ、はじめますか。すごく、短い実況になるけど。


家守:かまいません


コトリ:ありがとう、じゃ、さえずるコトリ最後の配信。「YOU」実況生配信、スタートです!




*ドアが開く音。

*【コトリ】が家の外へ一歩踏み出す。

*家の前の道路には血痕がこびりつき、瓦礫が散乱している。




コトリ:そう、俺は家守さんが見てくれたあの没動画を最後にアップしてから、部屋を出た。久々に太陽を浴びたよね。生身で感じる自然の光って確かこんなだったなぁって、どこか感動的に感じたよ。




*【コトリ】は家の前の道路を歩き始める




コトリ:世界は俺が引きこもっている間にすごく静かになっていた。いや、実際に静かだったかどうかはわからない。俺がもっている一番性能の良いイヤフォンをして、大好きなゲームのサントラを大音量で流していたからね。でもまあ、予想通り世界はまるでゾンライみたく、酷い有様だった。引きこもる前は良く遊んだタクぽんの家は何故か黒焦げになってたし、初恋だったチエちゃんの家の窓ガラスは全部割れてて、血が飛び散っていた。




*【コトリ】はひたすら道を進んでいく



家守:それは、きっと辛いことなんでしょうね。プログラムの私には、よく分からないですが。


コトリ:いや、それがそうでもなかったかな。悲しいという感情が抜け落ちたみたい、家族が死んだ日に……いや、そのずっと前からかも。家族が、俺の存在を殺した時から、かな。だからこそspeakの姿を見るのが恐ろしかった。やっと自分自身の存在を認めてくれる人間に出会えたっていうのに、彼女が存在しないプログラムだったらとか、そんなことばかり考えていた。



*【コトリ】は駅前へとたどり着く

*駅前のシンボルである大きな木を目指して【コトリ】は歩き続ける

*その周りには、肌色のモザイク柄の何かが複数体蠢いている



家守:このモザイクは何です?


コトリ:音を聞いた人間の成れの果て。このゲーム全年齢対象なんで。


家守:なるほど


コトリ:待ち合わせ場所はあの木の下だった。あの駅が2人の住んでいる場所から真ん中くらいだったってのと、いつも学生があの下で買い食いをしてるせいで、小鳥がよく集まってた場所だったから。見晴らしもいいし、危険があったらすぐ逃げられると思って。




*【コトリ】は木の下にたどり着き、足を止める。




コトリ:しばらくは気が気じゃなかったよね。やっぱりプログラムだったんじゃないかとか、生身の人間だったとしても、からかわれてるだけなんじゃないかって。でもまあ、仮に誰も来なかったとしても外に出るのは久しぶりだったし、音楽プレーヤーのバッテリーが30%を切るまでは、待ってみようと思ったんだ。




*【コトリ】は木の下に設置されていたベンチに座る




コトリ:それからしばらく人間もどきを眺めたり、音楽聴きながらボンヤリして過ごして……バッテリーがそう、確か38%になった時だった。




*駐輪場近くの建物から、人影が現れる


 


コトリ:喜びの前に、自分の目を疑ったよね




*少女のドット絵が【コトリ】に近づいていく




コトリ:幻影みたいに、視界が霧掛かったことを覚えてるよ。彼女は夕日の光を背景に、ゆっくりこっちに歩み寄ってきた。逆光だったから表情は見えなくても、俺は穴が開くんじゃってくらい彼女の顔をみた。彼女は光沢のあるピンク色の大きなヘッドホンに、小さな顔をすっぽり包まれてた。




*【コトリ】がベンチから立ち上がり、少女に歩み寄る




コトリ:あまりにも彼女に見入ってたからだと思うんだけど




*少女の左側から、モザイクが近づいてくる




コトリ:その存在に気がつかなくってさ




*モザイクの「一部」が、少女に触れる




コトリ:叫んだ時にはもう何もできなくてさ




*少女のヘッドホンが、彼女の頭からずれ落ちる




コトリ:彼女の瞳だけが光ってて、そこから色がなくなってくのがわかった。あ、感染したんだって。




*【コトリ】は少女に背を向ける




コトリ:言葉を失って、世界と自分が混ざり合っていくときの顔、って、あんなんなんだなって思った




*暗転

*無音

*エンドロールのテキストが流れ出す







コトリ:………………どう?


家守:どう、って


コトリ:がっかりしたでしょ。あっけなく、これで、終わり。


家守:ああ。そうですね。残念です。


コトリ:うーん、ここは「そんなことありませんよ」とか、「会いにいくことに意味があるんですよ」とかフォローするところだけど……。


家守:二つ、質問をしてもいいですか


コトリ:どーぞー


家守:あなたはspeakと会えた。しかし言葉を交わす前に、彼女は「音」に感染した。あなたは、その後どうしたんですか?


コトリ:見た通りだよ。彼女を見捨てて逃げ帰ってきた。


家守:そうですか。では二つ目の質問です。


コトリ:はい


家守:あなたは今どこにいますか


コトリ:ん? だから、家に、


家守:家のどこに?


コトリ:どこって……机の、


家守:どういう体制で?


コトリ:ちょっと、家守さん……


家守:どこから、どうやって、その声を出していますか?


コトリ:どうしたの、急に……どうやってって、そりゃ口から


家守:その口に触れますか?


コトリ:……は?


家守:口を触る、手がありますか?


コトリ:何でそんなこと聞くの


家守:あなたはいつかの実況で、わたしと会話をしましたよね


コトリ:え………


家守:わたし、どんな声をしてましたか?


コトリ:それは


家守:男でした? 女でした? それとも中性?


コトリ:………


家守:答えられない?


コトリ:家守さん君は一体何を


家守:あー、残念です。


コトリ:残念、


家守:また失敗ですね


コトリ:失敗……


家守:ああ、ほら、そろそろエンディングロールが終わります。見てください。





*ゲーム制作:家守意歌 (iemori iu)





コトリ:……は?


家守:どうしましたか?


コトリ:名前がちがう……どうして、これは、俺の作ったゲームのはず……


家守:あなたのものなんて、この世界には一つもありませんよ。さっき暇潰しに書き換えときました。


コトリ:……まって、君の名前


家守:ああ、下の名前、教えてなかったですか?


コトリ:……いえもり……いう?


家守:そう、いう。「speak」って呼んでくれてもいい。


コトリ:ちょっと、意味が、わかんない……


家守:本当のことを、教えてあげる。あなたはこの世に存在しない。とっくの昔に死にました。私の目の前で。


コトリ:……………………


家守:あなたは単なる記号の羅列、テキストとして、いまここに、存在をしている。


コトリ


家守:そして、このテキストは、



<このライブ配信は終了しました>









*もう今の貴方には、ここのメッセージが見えるんじゃないですか?

*もう一度言います。

*このテキストは、フィクションです。

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