コトリ:はい、あーー……音量大丈夫でしょうか? あーーーー……はい、生きとし生ける者達よ、こんにちは。コトリですー。この間の配信、変な所で切っちゃってごめんなさい。でもまあ、内容的にやむおえないかなーって。
***:配信きた!
***:この間の動画、なに?
***:コトリン、説明して
***:あれなに!?
コトリ:説明って何を? 動画の内容はそのままだよ、伝えたいこと伝えただけ。ああ、そうそう……この間アップした動画と、YOUもそうだけど、homeの利用規約に違反をしています。「この世界で起こっている悲劇についてなにもなかったようにふるまうこと」っていう。思いっきりびりびりに破っちゃってる。けど、一応YOUについては配信許可をもらってます、home警察も、このゲームが一体何なのか知りたいみたい。
***:ゾンライのレベルがYOUに出てくる主人公と同じだった
***:YOUの主人公ってマジでコトリ?
***:YOUに併せて後でレベル上げしたんだろ
***:何が起こってるんだ
コトリ:ああ、ゾンライの俺のレベルが、YOUの主人公と同じだったこと? あれ、俺もあとで気づいてゾワッとしたわ。たまたまなんだよね、本当に。それか、あれかな、YOUとゾンライのアカウントが裏でリンクされてるとか? 仕組みはよくわかんないけどさ、ありえるよね、なにせ呪われてるんだから。
***:そんな都合よすぎないか
***:みんな、コトリのこと信じよう
***:視聴者のこと馬鹿にしてる?
コトリ:まあまあ、とりあえず始めよ! おかしなこといっぱい起こってるけど、ゲームにはエンディングがある。それを見てから考えてもいいでしょう。ってことで、「つづきから」。
*プレイヤー選択 ~つづきから~
*チャット画面の続きが表示される
コトリ:あーそうだ、speakと直接会う? ってところでフリーズしたんだよね。オフ会とか今の時代ご法度だけど……
***:利用規約……
***:言っちゃいけないことガンガン言ってて笑う
***:ここ無法地帯なの?
コトリ:まあこんな世界じゃ法もへったくれもないからね。で、えっと……会う前にお互いのことを知ろう? ってなったんよね。で、speakがhomeのアドレスを送ってきたと。
コトリ》このアドレス、何?
speak》homeっていう作品掲載サイト
コトリ》作品って?
speak》なんでも。小説、漫画、ブログ、音楽、動画……人の手で作られたものなら、どんなもの、ことでも掲載できる。最近試行運転し始めたサービスなんだけどね
コトリ》最近? こんな、世界が大変な時に?
speak》だからだよ。これ、私のお母さんが開発に関わってるの
コトリ》君のお母さんって、NPCの……
speak》まあ、NPCっていうか、共感能力のあるAIの開発とか、人間の気持ちを理解できるロボットとか……そういう夢見がちな研究
コトリ》よくわかんないけど、それとこのhomeにどんな関係が
speak》いま、人類滅亡の危機でしょ。言語が失われて私たちの文化は消えつつあるし、生き残るだけで精一杯
コトリ》うん
speak》だからあえてhomeっていうサイトを作ったの。私のお母さんの大学と、大手情報会社の共同で。人々が創作をやめないように
コトリ》まあいずれ滅びるのも時間の問題だと思うけど
speak》そう。だからね、homeには独自のアルゴリズムが設定されてるの。人類が滅んだあとにも、このサービスは進化し続ける
コトリ:うーん、本当に現実のhomeと同じだなぁ。家守さんは見てるのかなあ? どう思ってるんだろう。この間の連絡、無視しちゃったから……
***:ワルじゃん
***:逮捕
***:やはり無法地帯だったのか
コトリ:いや、なんか怒られそうだったからさ……あんな動画アップしちゃって。規約違反で秒で削除されたけど。
コトリ》つまり、何
speak》残された膨大なデータから、人類が今後どんな創造をしていくかを演算して表現し続けるってこと。いまもたくさんのユーザーが、そこで創造を続けてる。人類の、自我の存在証明をかけて
コトリ》存在証明
speak》ね、言ったでしょ、私とあなたはよく似てる。あなたが望んでるものが、私にはよくわかる
コトリ》望んでいるものって
speak》承認されたいんでしょう
コトリ》そんなことない
speak》うそつき。あなたは承認されたがっている。あなたのアカウントを見続けてわかった。私のような個人一人に承認されたところで、あなたの心は満たされないって。できるだけ多くの、できるだけ広い範囲に、大勢の人に自分の存在を証明したい。違う?
コトリ》俺は……
speak》homeでなら、それが叶う
コトリ》どういう意味
speak》そのままの意味。だから、おしえて
コトリ》なにを
speak》あなたのことを
*画面点滅
*明るいコトリの部屋
***:ん!?
***:これって…
*パソコン周りに機材が増えている。
*ドット絵の【コトリ】はマイクにむかって喋りはじめる
コトリ「生きとし生ける者達よ、はじめまして、さえずるコトリです。配信を見ているみんな、こんにちは、こんばんは」
***:は?
***:え
***:!!!!!?????
***:あいさつが……
***:コトリの挨拶だ
***:やっぱり
***:おい、説明しろ
***:コトリン?
***:にげたか?
***:おい、
***:逃げるな!!!!!!!!!
***:なんか言え
***:こわい
***:おーーーーい
***:消えた??
***:これは言い逃れできない
***:長いな
***:おい、逃げんなよ
***:逃げるな
***:逃げるな
***:逃げるな
***:逃げるな
***:逃げるな
*ドット絵の【コトリ】はマイクにむかって喋り続ける
コトリ「やあ、みんな、元気? ゲーム内のコトリです。いま、この『YOU』というゲームは、『俺』によって配信実況されていることでしょう。めちゃくちゃに荒れ狂うコメント欄が目に浮かぶわ。まあ、お前らのそんな言葉の羅列に何の意味もないってこと、この俺が一番よく知ってるんだけどさ」
***:何を言い出すんだ?
***:このコトリ、なに
***:本物はどこに行った
コトリ「やっぱり言葉って器だな。無が発した言葉は空っぽだ、このhomeをはじめてよくわかったよ。一人でゲームをプレイして、まるで意識があるかのように振る舞うNPCに情を移すことなんてよくあることだ。無下に扱うことなんてできないし、一緒に生きている気分になる。プレイしている間はそうだ。でもそれと同時に、いらなくなったらすぐに切り捨てることができる。ゲーム終了ボタンを押せば、それで終わり」
***:まって、どういうこと?
***:何を言ってるの
コトリ「言っても無駄かもしれないけどさ」
***:このゲームって、
コトリ「おまえら、もう、とりつくろわなくてもいいよ」
***:呪われてる?
コトリ「だってお前らに心はないし」
***:コトリ、まって
コトリ「意識なんてないんだから」
***:コトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコトリコ
コトリ「お前らはコメントサービスプログラムだから」
***:エラー表示::::再起動してください**:::エラー表示::::******:::エラー表示:::::::*再起動してください::::**:エラー表示::::再起動してください**エラー表示::::***:::エラー表示:::::::*再起動してください:::::::***:エラー表示::::再起動してください**:::エラー表示::::***::エラー表示:::*再起動してください::::***:エラー表示::::再起動してください**:::エラー表示::::******:::エラー表示::*再起動してください:::::::***:エラー表示::::再起動してください**:::エラー表示****:::エラー表示::*再起動してください:::::::
*コトリが立ち上がる
*部屋を出て、廊下をあるく
*暗いリビングの扉を開ける
*電気を点ける
*食い殺された母
*心臓を刺された兄
*首を吊る父
コトリ「………………」
*コトリは無言で死体を横切り、家の扉を開ける
コトリ:……と、いうわけ。はい、本物のコトリです。speak……おまえ、この配信を見ていてくれてるか? ……ああ、コメント機能エラーになってるから、答えられないか。じゃあ、これまで通り一方的に喋らせてもらうよ。お前がhomeを使って教えて欲しいと言った「あなたのこと」。これが、このゲームの中のコトリが、俺の人生だ。……な? 何も変哲もないだろ。最後が少しショッキングか? でもこんなご時世、家族が惨殺されるなんてよくある話だ。まあ、実況するのは楽しかったよ、いい気分転換になった。今までじっと黙って生きてきた分、人生でしゃべる言葉、すべてを一気に喋った気がする。本当にいろんな人に承認されている気分だった。だけど、どうしてだろうな。やっぱり電源を切ると、虚しさだけが残るんだ。俺は、お前にまだ会ったことがない。だから俺にとってお前は虚構だ。だから、ここにつくコメントも、お前の言葉も、同じ言葉なのにさ。どうしてだろうな。……とりあえず、俺は待っているよ。この放送が終わったら、待ち合わせ場所に向かう。どうか気をつけて。じゃあ、あとで……生きていたら、会いましょう。ばいばい。
<このライブ放送は終了しました>
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