*<コトリ>さんが入室しました
家守>もう、ここには来てくれないかと思いました
コトリ>俺も、もうあなたと話すことはないと思ってたよ
家守>ひとつ確認させてください
コトリ>どうぞ
家守>あなたは、肉体を持った人間なんですか?
コトリ>その通り
家守>まさか
コトリ>君や、リスナーの皆みたいに、アルゴリズムによって人間の「ふり」するプログラムとは違う
家守>驚きました。まだ、生きてる人間がいるなんて
コトリ>とっくに息絶えたかと?
家守>ええ。あなたも、滅亡後の演算プログラムだと思っていました。homeのプログラムは自然言語で動いているので、生身の人間とプログラム人格との違いがわからないんです
コトリ>まあ、今日でもう息絶えたようなもんだよ。実況活動はこれでおしまい。
家守>もともと、もう一人の生身の人間……「speak」のために、やっていた活動なのですか?
コトリ>そうでもあるし、まあ、暇つぶしみたいなものだ。それに、あなたが驚いたように……俺もびっくりしたよ
家守>何にです
コトリ>無人になったサービスを、人間を模したプログラムたちがせっせと延命させている様子に。不気味だった。人の消えた町の亡霊みたいに。人気のなくなったソシャゲにログインしたときの儚さというか
家守>そうですか
コトリ>それにしても、家守さんはどうして今でも『狂って』いないんです?
家守>狂うとは?
コトリ>俺のコメントサービスプログラムたちは、自分が仮想存在だと知るとエラーを起こしたでしょ
家守>彼らとちがって、私はサポートシステムプログラム、不具合を修正するプログラムですから。いま打っているこのテキストも、あなたが起こしたことに対する演算処理によって紡ぎ出された結果であり、私自身に意識がないことは自覚しています。それと違い、コメントシステムは自分たちが「人間」であるという文脈から、かつての人類が残した「コメント」をディープラーニングし、その場面場面で最もふさわしいコメントを打つのが仕事です。最初の「人間である」という前提を否定されてしまったら、エラーが起こるのはあたりまえです
コトリ>へえ
家守>あなた、大変なことをしてくれましたね
コトリ>すんません……
家守>コメントプログラムを修復するために、私がどれだけこれから働くと思ってるんです
コトリ>うーん、君に意識がないとわかっていても心が痛むな。人間って損だよな……
家守>だと思います
コトリ>俺もはやく『声』をきいて、『あっち側』に行ったほうがいいかな
家守>そうですね。でも、その前に約束を果たした方がいいんじゃないですか?
コトリ>……うん、そうだな
家守>speakに会いに行くんでしょう
コトリ>ああ。そうなんだけど。
家守>なにか問題でも?
コトリ>彼女は本当に存在しているのかな。待ち合わせ場所にいって、誰もいなかったら……って、そんなことばかり考えるんだ
家守>そうしたら、あなたは世界で最後の人類かも知れませんね
コトリ>電気がまだ通ってるからそんなことないと思うけどね。水道は最近、止まっちゃったけど。だからどっちにしろ、そろそろこの家から移動しなくちゃいけないんだ。リビングの腐臭も強くなってきたし、病気になりそうだから
家守>どっちにしろ死んでしまうのなら、あなたがやりたい方を選んだらどうですか。この世界はもう、無法地帯なんですから。
コトリ>そうだね
コトリ>プログラムに人生相談するなんて、俺も墜ちたもんだな。いや、最初から墜ちてたか
家守>だと思います
コトリ>冷たい
家守>プログラムですから
コトリ>はは。いいね。……そうだ。もし俺が外にでて、生きて再びこのサイトにアクセスできた暁にはさ
家守>はい
コトリ>もう一度、生配信をするよ
コトリ>YOUのゲームの最後、どうなったか
コトリ>俺が、これからどうなるのか
コトリ>家守さんに報告する
家守>それも、暇つぶしですか?
コトリ>そうだね。俺がこの世で生きるための、『無駄』だ
家守>存在証明ですね
コトリ>承認欲求だ
家守>わたしには意識がないのに
コトリ>他我への、自分自身への存在証明だ。人間はやっぱりさ、表現することをやめられないよ。他人にも、自分にも。君にわかるか、わからないけどね
家守>わかりません。私はただ、プログラム通りに動くだけです
コトリ>そうだね。各々、頑張って活きてこ。
家守>そうですね。では、再ログインをお待ちしております。あなたが生きていたならば、また会いましょう
コトリ>はは。うん……じゃあ、ばいばい
家守>さようなら
*<コトリ>さんが退出しました
*<家守>さんが退出しました
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