「うー、ねむ」
「眠そうだね」
隣を歩いている恋人の三田村が心配そうに、玉城の顔をのぞきこむ。卒業式の式典の最中、玉城はずっと睡魔と闘っていた。朝方近くまで漫画を描いていたからだろう。
今、玉城は新刊を作りなおしていて、その作業が架橋に入っている。実は新刊の内容について姉が何も言わなかったこと、峰岸が違和感を抱いた話を、三田村に打ち明けたのだ。
すると三田村は最後まで話を聞いた上で、静かに語りだした。
「それはきっと読者が知りたかったものがなかったからだと思う」
「知りたかったもの?」
「そう、淳の気持ち」
ずっと好きだった涼平の気持ちを受け入れることではなく、ちゃんと涼平のことを好きになったのか、それがきっと読者は知りたかったのだとわかった。そう三田村に指摘されてから新刊を読み返すと、なるほど納得して、結局、同人誌を作り直すことにした。希望者には交換対応という方法をとるつもりだ。
同人誌なんだから、そんなにちゃんとしなくてもいいと姉からもアシスタントたちからも言われたが、この本は自分と三田村にとって思い出の漫画だし、きちんと終わらせようという結末に至った。
とはいえ、寝不足のまま、卒業式に出たのはちょっと無茶だったようだ。
「あ、そういえばさ、おまえ、うちのたまきあいこに会わないか?」
「えっ、たまあい先生!」
三田村の顔は一気に緩んだが、すぐに顔はキッと引き締めた。
「やめとく。玉城くんのお姉さんだけど、たまあい先生ファンとしてはフェアじゃないし」
「そういうと思った」
三田村らしい回答だな、と思う。この短い間に三田村の考えや言いそうな言葉がわかるようになってきた気がする。
「でも単刀直入に言う。姉ちゃんがおまえを連れてこいって」
「え、ええっ」
「きっといろんなポーズやらされるのが目に見えてるから、絶対に嫌だってことわったんだけど」
「いろいろやらされるって何?」
三田村が不安げに、おそるおそる聞いてくる。
「姉ちゃん俺たちの写真見てるから」
「えー! 嘘でしょ。どうしよう、たまあい先生に見られちゃってるなんて」
「まぁ、だからその、おまえが俺の漫画のモデルってこともバレてて」
「それは内緒にしておきたかった……」
まぁ結果、涼平である三田村はずっと自分のことを好きだったわけなので、内容までも現実と同じになってしまった。今、思い出しても頬が緩んでしまう。想っていたよりもずっと前から想われていたなんて、そんな漫画みたいなことあるだろうか。いやこっちは漫画じゃない。
「けど付き合い始めたってのはまだ言ってない」
「え、そうなの! ごめん、僕、言っちゃった!」
「マジか、まぁいいけど……って、いつのまに峰岸と仲良くなったんだ?」
「あれ、玉城くんやきもち?」
「そうだよ! 俺の知らないところで」
素直に認めて、三田村を後ろから抱きしめてはしゃぐ。ごめんなさぁい、とかわいい声をあげる三田村もまんざらでもなさそうだ。こうして腕の中に天使を捕まえるなんてバチが当たってしまいそうだ。神様には内緒にしておこう。
誰にも内緒の恋にして、二人だけの秘密をたくさんつくろう。
Fin
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