純度の高い魔力。
狭範囲に圧縮された濃度。
雪月花の中心を穿ちながら、空間を駆け抜けるように一本の実線が空に走った。
坂本の目には、少なくともそう視えていた。
天守閣を見上げた先にある、巨大な雪の花。
その中心から何かが吐き出されたように、細長い魔力の「線」が伸びる。
天使は魔力を「目」では追わない。
人間が空気の流れを視覚化できないように、天使は魔力の流れを視覚“だけで”捕捉しない。
断層の内部から飛び出てきた魔力の「正体」がなんであれ、それが敵意を持った一撃であることを、魔力の“性質”により察知していた。
それが、考え得る限り、かなりの深さからやって来ているものであることも。
「縛」
キョウカは断層の中から出てきたものが敵の「攻撃」であるということを察知し、雪月花の外部に散りばめていた『残雪』と呼ばれる補助魔法を1箇所に集める。
『残雪』は、キョウカが作り出した擬似的な“フィールド”だ。
自らの魔力を実体化した上で、その表面化された魔法領域の内側に、互換性のある魔力媒質を閉じ込める。
この場合で言えば、雪月花の氷の表面に『残雪』を練り込ませることで、具象化された魔法の“分子領域“に、より細分化された魔力効率を落とし込むことができる。
基本的な性質として、「魔法」とは物質と非物質の間を行き来する電子回路のようなものだ。
魔力はその回路の上を流れるエネルギーそのものであり、形を生み出すための「媒体」である。
魔法は、キャンパスに描かれた絵であり、「魔力」というペンを使って描かれた線である。
魔力というペンを使って書かれた“文字”は、時間的、あるいは空間的に限られた領域の中で動くことしかできず、キャンパスの「外」に絵を描くことは、原理的に不可能と見ることができるだろう。
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