グオオォッ
迷いがなかった、と言えば、それは嘘になるだろう。
事実、坂本の頭の中では様々な感情が行き交っていた。
防御に専念するのは間違いではない。
相手との距離や、空間の“密度”。
様々な要素を加味しても、自らが導き出した発想は、シンプルな“実直さ”の中に力強い芯を犇めかせていた。
それでも迷いが生じたのは、やはり敵の「未知」の部分だ。
最初に仕掛けた攻撃が何らかの障壁によって防がれたのは想定できた。
元々攻撃の「手段」に用いられたものではなかった。
届かなくて当然で、成り行き上仕方のないこと。
——問題は、その「挙動」だった。
まるで攻撃されていることなどおくびにも出さず、悠然とした「歩」を進めている。
あり得ないことではなかったが、“不自然”ではあった。
よほどの自信家であったとしても、初めて対峙する敵の攻撃に一切の影響も見せないなど、あまり考えられない。
彼の経験上、ほとんど目にしてこないことだった。
障壁があるという前提を踏まえたとして、普通は様子を伺うものだ。
ところが、目の前の敵は視線はおろか、些細な挙動でさえ変化らしい変化を見せなかった。
それが、落としきれない汚れのような違和感を運んでいた。
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