咄嗟に周囲を見渡す。
しかしそこに横たわるのは、真っ青な空と、透き通る空気の色だけだ。
動く視線の先で、靄のように広がる“不協和音”。
残響のない沈黙。
ザッ
足音?
チサトは聞き逃さなかった。
空気中に響く振動は、それが僅かな大きさであっても、確かな「音」になって成長する。
空気の震え。
一般的には、それが「音」の正体だ。
風域の中にいる彼女にとって、その領域内で伝わる振動は皮膚に触れる感触のように間近に感じ取れる。
だからこそ“気づいた“。
音の反応があったのは、天守閣の方だ。
ただ、それ以前に注視すべきことがあった。
首の骨を折られたのか、意識を失っているキョウカの姿が、「空中」にあった。
泳いだ視線の先で真っ先に捉えたのはその光景だった。
自由落下の最中にある体。
逆さまに落ちていく様子が、動かした視線の先に入った。
「音」は先に届いていた。
だから、咄嗟に振り向いたのだ。
キョウカの姿が目に入ったのは偶然だった。
慌てて状況を整理しようとした。
目の前にいた敵はいつの間にか天守閣の屋根に降り立っていた。
「音」は、勢いよく降り立った時に生じたものだった。
その証拠に、屋根を覆っていた氷がひび割れ、降り立った場所を中心に均等に亀裂が入っていた。
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