「おいチサト、仕事はまだ終わっていないぞ?」
「え、でも全部討伐できたじゃん」
「あれは雑魚だ。まだ中に大きい反応がある」
「えええ。もう解除しちゃったよ?」
キョウカはため息混じりに頭を抱える。
チサトの風域は準備と設置に時間がかかる。
クリーチャーの討伐は確かに完了していた。
しかし中に大きい反応があるということは、エドワードの無線連絡でも耳に入っていた。
連絡が入っている以上、風域の解除は時期尚早だ。
キョウカの言いたいことは、チサトもよくわかっていた。
ただし、チサトにはにわかに信じられなかった。
大きい反応があると言っても、それは断層の構造上よくあること。
元より断層には“海域”と言って広範囲に及ぶエーテル場の「波」がある。
その流れは乱雑で、絶えず不安定な流域が行き交っている。
魔力の誤検知が起こることもザラにあった。
ましてや、短時間での調査では特に。
「話していても埒があかない。チサト、再度ネットを張れる時間は?」
「えーっと、5分くらい?」
「充分だ。これから断層の表面に簡易的なシールドを張る。恐らく一時的な凌ぎにしかならないが、そっちはそっちでできるだけ急げ?」
「…え、でも、あくまで“反応”でしょ?」
「念には念を、だ。来なければ来ないでいい。わかったな?」
「うぁーい」
名古屋ジェッツがCランクに該当している理由。
それはキョウカの「性格」に起因している部分が大きい。
『速戦即決』の理念を掲げたのも彼女であるが、それは過去に魔族との戦闘によって仲間を失ったことが、主な要因となっていた。
戦いの場に於いては、一瞬の気の緩みも命取りになる。
考えられる「可能性」を一つ一つ潰していくこと。
「念には念を」という言葉は、彼女のその考えを如実に表していた。
「行動」を先決に捉える彼女ならではの考えだ。
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