鮮血はなかった。
空気が“破れた”ような音だけが、そこにあった。
バケツをひっくり返した水が地面とぶつかる。
あるいは、山から落ちてくる雪崩が、勢いよく斜面を滑り落ちる。
景色の断片そのものを変えるほどの「厚み」が、空間の中心を捉えていた。
その様子はまるで、口を開けた狼が、獲物の首を刈り取る姿そのものだった。
敵の上半身が跡形もなく消え去る。
風が砂を散らすように、また、霧が晴れた空のように、——広がる。
地面の上に立ち尽くす敵の影が、まだ、その「場」に残っていた。
敵はまだ“立っていた”。
立ち、次の攻撃へと備えていた。
私にも微かに感じられた。
あの時確かに防御の体勢を整えようとしていた。
正面から向かってくる先輩の軌道線上に、動いていた。
——それでも
微かに動きが鈍ったように見えたのは、見間違えだったんだろうか…?
2人の足元で地面が僅かにうねったように見えたのは…?
わからない。
ただ1つ言えるのは、確かな結果がそこにあるということだった。
審判団が試合終了の合図を告げた。
「明白」だったからだ。
この試合の行方。
勝敗の行方が。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!